あらがうもの
□ドビーのブラッジャー
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今シーズン第1回のクィディッチ試合の前日。
フィービーがルーン文字学の参考書を借りるため図書室に行くと、司書のマダム・ピンスの疑惑に満ちた声が聞こえた。
「『最も強力な魔法薬』?」
「これ、私が持っていてもいいでしょうか?」
息を弾ませたハーマイオニーがつかんだ羊皮紙をロンがむしりとって、マダム・ピンスに差し出した。
「サインならまたもらってあげるよ。ロックハートときたら、サインする間だけ動かないでじっとしている物なら、なんにでもサインするよ」
ポリジュース薬の調合法が載った本は映画と違って禁書指定されていたから、どうやって貸出許可証に先生のサインをもらおうかと悩んでいたのだが。
「その手があったか」
フィービーが背後から話しかけると、グリフィンドールの3人は弾かれたように振り返った。
ポリジュース薬の作り方を調べるのかとフィービーが小声で聞いたら、ハーマイオニーは息をのんだ。
ハリーは驚いたように目を見開き、ロンは「なんでわかったんだ」と言った。
「マルフォイは石になったミセス・ノリスを見た時点で、継承者と秘密の部屋のことを知っていそうな口振りだったじゃない? マルフォイから話を聞き出すために、スリザリン生の誰かに変身するつもりじゃないかなって思ったんだよ」
「フィービーは魔法薬学の授業をちゃんと聞いていたのね」
安心したように言ったハーマイオニーは、ハリーとロンをちらりと見やった。
しかめ面になったロンが言い返そうとしたとき、司書が大きな古めかしい本を持ってきた。
禁書を入手した3人はそそくさと図書室をあとにした。
フィービーも彼らについていくと、ハリーがためらいがちに口を開いた。
「このあいだジャスティンに会ったら、僕があいさつする前に逃げて行っちゃったんだ」
「ジャスティンはいつ自分が襲撃されるかもしれないから、慎重になっているんだよ」
フィービーの反論に対し、ロンは不服そうに鼻を鳴らしたが。
ハーマイオニーは暗い表情になった。
マグル出身者の彼女は、ジャスティンの恐怖心が理解できたからだろう。
フィービーが気遣うように視線を向けると、ハーマイオニーは強気な笑みを浮かべて禁書を入れたカバンを軽く叩いてみせた。
4人が向かったのは、壁に犯行声明文が残っている3階の女子トイレ。
ドアには大きく【故障中】と書かれており、フィルチの見張り用の椅子が近くに置いてあった。
女子トイレに入ることをためらうロンに、ハーマイオニーはきっぱり告げた。
「まともな神経の人はこんなところに絶対来ないわ。だから私たちのプライバシーが保証されるの。入口でぐずぐずしていたら、またパーシーに見つかるわよ」
そのとき、フィービーのローブに何かが飛びついてきた。
フィービーはびっくりして声をあげそうになったが、肩によじのぼった黒猫を見て言葉をのみこんだ。
灰色の目をとがめるように細めたバジルは、ローブのフードの中に潜りこんだ。
どうやらスリザリンの魔法遺跡を見物するつもりらしい。
本体は成人男性なのに女子トイレに入るなんてと非難したら、ハリーたちと行動していることについての説教が倍になりそうだから、変態と罵るのは心の中に留めておこう。
ハーマイオニーに急かされたフィービーは急いで、陰気な女子トイレに足を踏み入れた。
個室の木の扉のペンキは剥げ落ち、そのうちの1枚は蝶番が外れてぶら下がっていた。
3階の女子トイレを誰も使いたがらない原因は、嘆きのマートルだけでなく内装も問題ではないだろうか。
当のマートルは機嫌が悪いらしく、奥の個室にこもって泣きわめいている。
バジルはフードの中から出て、あちこち縁の欠けた石造りの手洗い台に飛び移り、蛇口をじっくり観察していた。
聖地巡礼中で尻尾が膨らむほどテンションが上がっているようだが、猫らしくない行動は控えてほしかった。