あらがうもの
□ドビーのブラッジャー
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湿った床に座りこもうとしたハーマイオニーを制止して、フィービーは自分のハンカチをビニール製のレジャーシートに変えて敷いた。
「フィービー、ありがとう。ハリーとロンも見習ったほうがいいわよ」
「ハンカチを大きくするくらい、僕だってできるよ」
むっとしたように言い返したロンを無視して、ハーマイオニーはしみだらけのページを慎重にめくり、「あったわ」と興奮した声をあげた。
生徒用の材料棚にある、クサカゲロウやヒルはともかく。
二角獣の角の粉末と毒ツルヘビの皮の千切りの調達法は、さすがのハーマイオニーでも即座に思いつかないようだ。
「それに当然だけど、変身したい相手の一部」
「なんだって? 僕、クラッブやゴイルの足の爪なんか入っていたら、絶対飲まないからね」
「相手の一部を取るなら、髪の毛が無難だと思うけど」
フィービーが若干引きながら言うと、ロンは怒って言い返した。
「足の爪が髪の毛に変わったところで、嫌なことに変わりないよ」
「でも、それはまだ心配する必要はないわ。最後に入れればいいんだから……」
「ハーマイオニー、どんなにいろいろ盗まなきゃならないか、わかってる?」
ハリーは心配そうにしながら、とんでもない発言をした。
まさかと思いつつも、フィービーは念のため聞いておいた。
「もしかして、スネイプ先生の個人用保管倉庫に盗みに入る気?」
「だって二角獣の角とか、生徒用の棚には絶対あるわけないし」
「3人とも、おじけづいてやめるって言うなら結構よ」
強い口調になったハーマイオニーの頬に赤みが差して、茶色の瞳が輝いた。
屋敷しもべ妖精擁護熱に駆られているときのようだ。
「私は規則を50以上も破りたくない。だけどマグル生まれの者を脅迫するなんて、ややこしい魔法薬を密造することより、ずーっと悪いことだと思うの」
「僕たちに規則を破れって、君が説教する日が来ようとは思わなかったぜ」
恐れ入ったように言ったロンは、やるよと答えた。
機嫌を直したハーマイオニーが再び本に向き合ったタイミングを見計らって、フィービーは提案した。
「ブラックさんに頼めば、必要な材料を調達してくれるんじゃない?」
洗面台に入ってくつろいでいたバジルが、不機嫌そうに唸った。
ブラック家の財産を無駄なことに使うなと言いたいのだろうけど、ハリーたちが事件解決のためと銘打って、犯罪行為に走るのを見過ごすよりマシではないか。
女子トイレを満喫しているバジルの犯罪臭い行為は止められないが。
あれは手遅れだ。
「無理だよ。シリウスは僕にこれ以上、秘密の部屋に関わってほしくないみたいなんだ」
ロンとハーマイオニーは意味ありげに視線をかわした。
マルフォイ家と同じくスリザリン出身者揃いのブラック家の出であるシリウスは、秘密の部屋について何か知っているのではないかと思ったのかもしれない。
フィービーは重たくなった空気を払拭するように、軽く手を叩いた。
「それじゃチャーリーに手紙を書いて、私が持っている一角獣の血と引き換えに、必要な材料を手に入れられるかどうか聞いてみるよ」
「お願いするわ。材料が全部手に入れば、だいたい1ヶ月で出来上がると思うわ」
「1ヶ月も? マルフォイはその間に、学校中のマグル生まれの半分を襲ってしまうよ!」
ロンが不満の声をあげたから、ハーマイオニーの目がまたしてもつり上がった。
それを見たロンは、「でも、今はそれがベストの計画だな」と付け加えた。
トイレを出るとき、フィービーがハーマイオニーと廊下に出て誰もいないか確認していたら、フードの中にいたバジルがいきなり鋭く唸った。
不審なものを見かけたのかと思って、フィービーがあとでバジルに聞いたら。
「ウィーズリーの六男坊がドラコを箒からたたき落とせば手間が省けると、ポッターに耳打ちしていたのですよ」
と、忌々しそうに言った。