あらがうもの
□ジニーの誕生日
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夏休み真っ盛りの8月9日の早朝。
虫取り網を手にしたフィービーは、自宅近くの森にて昆虫採集の真っ最中だ。
単なる遊びで虫捕りをしているわけではなく、いくつか目的を兼ねている。
まずは、父のエイモスが飼育するペットのエサ捕り。
お次は、フィービーが研究中の符術の護符に使えそうな魔法生物の採集。
そして最後は、31年も生きているのに虫捕りをしたことがない貴族に、自然学習をさせることだ。
「ほら、バジル。妖精は常緑樹の新しい葉の裏側に卵を産みつけるんだよ」
「知っています。魔法生物飼育学でボウトラックルにエサをやったとき、教授のケトルバーンが用意した妖精の卵を見たことがあります」
リュックサックの中にいる黒猫のバジルは、不機嫌を隠さない声で言い返した。
「自分で妖精の卵を捕ったことはあるのかな?」
「妖精の卵を自分で捕る必要性を感じたことはありません。魔法動物ペットショップに行けば、1さじ12クヌートで売っています」
「うわ、おぼっちゃまらしい答え」
「無駄話してないで、さっさと虫捕りを済ませなさい。フィービーが先学期末に夜中に寮の外を出歩いた、処罰も兼ねているのですからね」
先学期末に窃盗未遂に及んだバジルに言われたくないと思ったけど、勉強を教えてもらえなくなるから黙っておく。
家に戻ったフィービーは捕った昆虫と妖精をオーグリーや火蟹たちに与えて、手を洗ってから食堂に入った。
テーブルについていた家族と朝のあいさつをかわしたとき、フィービーはエイモスが読んでいる預言者新聞をちらりと見た。
魔法大臣のバーティ・ヒッグズがパーティの席で、レアステーキに文句をつけて吸血鬼と鬼婆を侮辱する発言をした問題をとりあげてる。
映画ではコーネリウス・ファッジが魔法大臣に就任していたけど、ファッジは魔法事故惨事部の次官だったときシリウスの誤認逮捕に関わったため、問責を受けて権力争いから外れたらしい。
それはともかく、賢者の石を盗もうとしたレギュラスの生存が、ダンブルドア校長によって明らかにされるのではないかと心配しているのだけど、今のところ彼が指名手配される気配はないようだ。
「フィービーにもホグワーツから手紙が届いているよ」
サマーニットを着たセドリックが、緑色のインクで宛名が書かれた黄みのかかった封筒を差し出した。
「ありがと、セド兄」
封筒の中には、9月1日に学期が始まるお知らせと、新学期に必要な教科書リストが入っていた。
「フィービーの教科書もロックハート全集か。闇の魔術に対する防衛術の新しい先生は、魔女かもしれないね」
セドリックはフィービーのリストをのぞきこんで、冗談めかして言った。
「……そうだといいけど」
遠い目になったフィービーは、褐色の短髪を無意識で掻いた。
するとストローで器用に牛乳を飲んでいたバジルが、椅子代わりにしていたフィービーの膝を後ろ足で蹴った。
「そうだといいけど、とはどういうことだね?」
エイモスはさり気なくを装って、探りを入れてきた。
1週間ほど前にダンブルドア校長がディゴリー家を訪れ、フィービーが予知夢をみる予見者であると説明して以降、父親はこんな感じだ。
フィービーは両親と校長の話し合いに同席せずに済んだのだが、家族に嘘をついてきたことがばれたので、気まずい日々を送っている。