あらがうもの
□仕組まれた予選
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三頭犬に遭遇した翌日。
朝食の席についたフィービーは、ナイフとフォークで細切れにしたニシンの燻製に、スクランブルエッグを混ぜた。
普段の猫飯はオートミールか牛乳に浸したパンと決まっているのだが、昨夜は少しはしゃぎすぎたので、ご飯でバジルの機嫌を取っておこうという考えだ。
「ねえ、フィービー。自分の食事を後回しにして、バジルにご飯を食べさせるのって大変じゃない?」
マーサはトーストにマーマレードを塗りながら聞いてきた。
「家でもこうしていたから慣れちゃったよ」
「私が代わりに、バジルにご飯を与えましょうか?」
フィービーの膝の上に乗っていたバジルは、ゆるく振っていた尻尾の動きを止めた。
元死喰い人の経歴を持つ三十路男性が変身した黒猫の世話を、何も知らない同級生に押しつけるわけにはいかない。
「バジルは人見知りするから、私がやるよ。気遣ってくれてありがとう」
「そう……じゃあ、フィービーの食事の手伝いをするわ」
青い目を輝かせたマーサの宣言を聞いたハンナは、食べ物を喉に詰まらせた。
フィービーは完成した猫飯をスプーンに乗せて、バジルの口元に運びながら言った。
「私にかまっていると、マーサがゆっくり食事できなくなっちゃうからいいよ」
「平気よ。私は早食いだから」
早食いは消化に悪いとフィービーが指摘しようとしたとき、ハリーとロンが大広間にやってきた。
フィービーがこっそりスリザリンのテーブルをうかがうと、マルフォイは薄灰の目を見開いていた。
罠にはめて退学処分に追いこんだはずのハリーとロンが、笑顔で朝食をとっている光景が信じられないのだろう。
驚愕するマルフォイに追い打ちをかけるように、大きなメンフクロウが8羽がかりで、細長い包みと箱をグリフィンドールのテーブルに配達した。
ロンのうらやましそうな声が、ハッフルパフのテーブルまで聞こえた。
「ニンバス2000だって! 僕、触ったことさえないよ。こっちの箱は……僕宛て? 新品の双眼鏡だ!」
昨日の今日でハリーの箒が届くなんて、いくらなんでも早すぎる。
マクゴナガル先生が暖炉を通して、ハリーのシーカー就任をシリウスに伝えたのだろうか。
ハリーに届いた荷物が最新の箒と知れ渡ったので、大広間はざわついた。
「もしかして、ハリーは最年少の寮代表選手になるのかな?」
アーニーは恐れ入ったように言った。
「どんなすごい技を持っていたって、1年生は寮代表選手になれないんだぞ」
悔しそうに言うスミスは少数派だった。
あのハリー・ポッターだから特別なんだ、という肯定的な意見が大半を占めている。
否定も肯定もできずに困惑するセドリックを見て、フィービーは初めてスミスに同感した。
そのとき、怒りで青白い顔がピンク色になったマルフォイが、クラッブやゴイルを引き連れて大広間の出口に向かった。
ハリーのもとに箒が届いたときから、不気味なほどに大人しくしていたバジルが、ちらりとフィービーを振り返る。
行動開始の合図だ。
箒の包みを抱えたハリーと箱を持ったロンを追いかけて、フィービーとバジルも大広間を後にした。
マルフォイは大理石の階段の前で、ハリーたちを待ちかまえていた。
「今度こそおしまいだな、ポッター。1年生は箒を持っちゃいけないんだ」
ただの箒じゃないぞ、とロンが言い返した。
「なんてったって、ニンバス2000だぜ。君、家になにを持ってるって言った? コメット260かい? コメットって見かけは派手だけど、ニンバスとは格が違うんだよ」
「君に何がわかる、ウィーズリー。柄の半分も買えないくせに。ブラックに双眼鏡を贈られたから、ポッターの太鼓持ちをするなんて涙ぐましいねぇ」
彼らが言い争っていると、小柄なフリットウィック先生がやってきた。
マルフォイは早速、レイブンクローの寮監に言いつけた。
フリットウィック先生はにっこりとハリーに笑いかけた。