あらがうもの
□飛行訓練と三頭犬
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木曜の夕食時。アーニーが興奮した様子で、同級生に話を振った。
「ハリー・ポッターが今日の飛行訓練で、ネビル・ロングボトムの思い出し玉を16メートルもダイビングしてキャッチするファインプレーを披露したんだって」
みんなはすごいと賞賛したが、スミスは「それっておかしくないか」と指摘した。
「僕たちの飛行訓練のとき、16メートルの高さまで飛ばなかったぞ。それにフーチ先生の前で、上空からダイビングなんかしたら大減点されるに決まってる」
フィービーの膝の上にいたバジルは、スミスに同意するように深くうなずいている。
同級生はアーニーの説明を聞くのに夢中で、フィービーの飼い猫に注目している子はいなかった。
「ハリーがダイビングしたとき、フーチ先生はその場にいなかったんだよ。箒が暴走して高いところから落ちて怪我したロングボトムを、フーチ先生が医務室に連れて行ったんだ」
「ロングボトムって事故ばかりおこす大まぬけだよな。魔法薬学の授業じゃ、友達の大鍋を溶かしたって噂だぜ」
「やめなよ、スミス」
「へー、ロングボトムの肩を持つのか? ディゴリーがチビデブの劣等生に気があるなんて、知らなかったよ」
無言で杖を抜こうとしたフィービーの手を、バジルは尻尾でぺしりと叩いた。
黒猫と睨みあうフィービーをよそに、アーニーは話を元に戻した。
「ロングボトムが落とした思い出し玉をめぐって、ハリーとマルフォイが口論をはじめたんだ。終いにはマルフォイが箒に乗って空中に飛び上がって、思い出し玉を放り投げて、ハリーに取らせようとしたらしいよ」
「どうしてアーニーはそんなに詳しく知っているの?」
不思議そうに聞いたハンナに対し、アーニーは得意げに種明かしをした。
グリフィンドールとスリザリンの合同飛行訓練を見学していた、ほとんど首なしニックから話を聞いた太った修道士サミーを通じて、アーニーは一部始終を知ったようだ。
ゴーストの情報網も侮りがたいとフィービーが思っていたら、グリフィンドールのテーブルで動きがあった。
ハリーと話していたフレッドやジョージが立ち去るのを見計らったように、マルフォイがハリーとロンに近づいて声をかけている。
マルフォイの後ろに控えるクラッブとゴイルは、握り拳を鳴らす仕草をしてハリーとロンを脅している。
飛行訓練でマルフォイがハリーを挑発したことを、謝っているようには見えない。
それより、とフィービーはあごに握り拳を当てて記憶を探った。
ハリーとロンは今頃、ハーマイオニーの案内でトロフィー・ルームに行ったあと、動く階段にはまって立ち入り禁止の廊下に足を踏み入れ、三頭犬と遭遇しているはずなのだが。
ハーマイオニーはハリーたちから離れた席に座って、ひとりで食事している。
フィービーが立ち上がろうとしたとき、バジルの前脚に膝を叩かれた。
ステーキ・キドニーパイに入っているレバーを食べさせろと催促しているわけではなく、ハリーたちのところへ行くなと言っているのだろう。
「確認するだけだって」
フィービーの言葉を聞き取ったマーサが、「なんのこと?」と聞いてきた。
「ハリーが退学にならなかったかどうか聞いてくる。フーチ先生がいないときに、箒に乗ってダイビングしたって先生にばれたら、やばいことになりそうだし」
「ハリーが退学処分になっていたら、そこで夕飯を食べてないよ」
「とにかく事情を聞いてくる」
ぶすっとしたようにひげ袋を膨らませるバジルを伴って、フィービーはグリフィンドールのテーブルに向かった。