あらがうもの
□飛行訓練と三頭犬
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「ウォーミングアップをしてくる」
ひらりと箒にまたがったセドリックは飛び上がり、暮れなずんだ空に吸いこまれるようにゴールポストの輪までたどり着いた。
セドリックが競技場の上空を旋回しはじめたとき、フィービーの足下から声が聞こえた。
「コメット・シリーズは安定感がありますね」
「何しに来たの、バジル」
周囲の暗がりに溶けこんだ黒猫は、銀に輝く両眼で見上げてきた。
「セドリックの練習が終わった後、コメットを借りるつもりでしょう。私も乗せてください」
バジルことレギュラスは学生時代にスリザリンのシーカーを務めていたらしく、今も飛ぶのが好きなようだ。
フィービーは一も二もなく、黒猫を箒に同乗させることを了承した。
ハグリッドの小屋に行ったことはバジルに内緒にしていたのに、ホグワーツにいる猫の情報網とやらで露見してしまい、結局バジルからお説教を食らう羽目になったからだ。
「フィービー、頼んだよ」
セドリックの準備ができたようなので、フィービーは袋に入れて持ってきたゴルフボールを色んな方向に投げた。ボールはスニッチに見立てているので、全力投球する。
地面に平行に飛ばしたボールも、セドリックは急降下して指先でつかんだ。
「さすがセド兄。ボールをひとつも逃さずにキャッチしたね」
「フィービーが変化球を投げてきたときは、取りこぼしそうになったよ。フィービーはチェイサーに向いているね。ハッフルパフ・チームのキャプテンは再来年で交代するから、チームが再編成されるとき、選抜に出たらどうだい?」
「うーん……チェイサーには憧れるけど、私の夢はドラゴン使いだから。魔法生物の勉強をしたり、呪文の練習をしたりする時間を確保したいな」
「クィディッチで培われる反射神経は、ドラゴンを相手にするとき役に立つと思いますよ」
バジルは前脚でゴルフボールを転がして戯れながら意見した。
毅然とした態度で言われたら、真剣に受け止めたかもしれない。
あたりが暗くなってきたので、練習は終了。セドリックにコメットを借りて試乗する。
バジルは器用に箒の柄に乗った。
猫だからバランス感覚に優れているのか、バジルは飛行中に箒から落ちたことはない。
落としたらただでは済まなさそうだが。
フィービーが芝生を蹴って高いところまで上昇すると、バジルが「そういえば」と話を振ってきた。
「ポッターは飛行訓練のあと、異例のシーカー抜擢をされるのでしたね」
何気ない口調だけど、静かに怒っている気配がする。
フィービーは爆弾に話しかけるような気持ちで、「そうですね」と答えた。
「ポッターを英雄に祭り上げるためとはいえ、いくらなんでも不公平だとは思いませんか?」
「そうですね」
「私の指示通りにしてくだされば、先日ポッターと馴れあったことを許してあげます」
「まだ許してなかったんだ……」
「何か言いましたか?」
「いいえ。なにも」