あらがうもの
□魔法薬の先生
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「では、モンクスフードとウルフスベーンとの違いはなんだね?」
「両方とも同じ植物で別名はアコナイトとも言いますが、トリカブトのことです」
「二角獣の角の粉末に毒ツルヘビの皮の千切りを加えると何になるか?」
わかるのはどちらも入手困難な代物だということくらいだ。
フィービーは弱ったように眉を下げて、「わかりません」と答えた。
「二角獣の角の粉末と毒ツルヘビの皮の千切りを使った薬は、ポリジュース薬と呼ばれる。自分以外の人間に変身する非常に強力な魔法薬である」
スネイプ先生の答えを聞いて、フィービーはがっかりした。
ポリジュース薬は便利そうだからそのうち調合してみようと思っていたのだが、材料を揃えるだけで難しそうだ。
映画のハーマイオニーはどうやって材料を調達したのだろう。
「1番目と2番目の問いは正解だ。諸君、なぜ今のを全部ノートに書き取らんのだ?」
いっせいに羽根ペンと羊皮紙を取り出す音がした。
それにかぶさるように、スネイプ先生が言った。
「ハッフルパフに2点与える。ただし、ミス・ディゴリーは我輩が出席をとる際、余計な質問をして時間をとったので、2点減点する」
小さくガッツポーズをとって初減点を喜ぶフィービーから、ハンナは物理的に距離をとった。
スネイプ先生は生徒を2人ずつ組にして、おできを治す簡単な薬を調合させた。
ハンナはスーザンと組んだので、フィービーはマーサと組んだ。
「よろしく、マーサ」
「こちらこそ。フィービーって魔法薬学も得意なのね。あんな難しい質問に答えられちゃうなんて……」
スネイプ先生の視線を感じたので、フィービーとマーサは口を閉じて干しイラクサを計りはじめた。
レイブンクロー生は全体的に手際がよく、スネイプ先生から注意を受けるのはハッフルパフ生が多かった。
「ミス・ボーンズ、手元を見て作業をするように」
フィービーと同じテーブルで作業していたスーザンは、鍋から目を背けて角ナメクジをゆでていた。
スーザンは一刻も早く調合を終えたかったらしく、鍋を火からおろさないうちにヤマアラシの針を入れようとした。
「スーザン、それはまだ入れちゃダメ」
スーザンの魔法薬が台無しになる惨事は防げたけれど。
となりのテーブルからスミスがここぞとばかりに、嫌みをぶつけてきた。
「プリンセスは慈善活動をしなきゃいけないから大変だな」
「黙って作業しないと、先生に叱られるよ」
「スネイプに気に入られたいなら、スリザリンに行けよ」
「ミスター・スミス、ミス・ディゴリー。私語は慎みたまえ。次は減点しますぞ」
スネイプ先生の低音が頭上から降ってきた。
フィービーは緩んだ口元を引き締めて、最後の詰めの作業に集中した。
授業を終えて地下牢教室を後にしたとき、マーサはがく然とした表情になって言った。
「信じられない。フィービーはスネイプが好きなの?」
「うん。あの渋メンボイスは1000ガリオンに値するよ」
「……今日からボイトレをして、スネイプみたいな声を手に入れてみせるわ」
「マーサ、落ち着いて。いろいろ方向性間違っているから」
つっこみを入れたハンナは、青ざめたスーザンに具合が悪いのかと訊ねた。
「……生き物の死骸が苦手なの。お昼は食べられそうにないわ」
ホルマリン漬けの瓶が壁一面に並ぶ地下牢教室は、座っているだけで苦痛だったのだろう。
フィービーは騒いだお詫びにあとで、スーザンの魔法薬学のレポートを手伝おうと思った。