あらがうもの

□魔法薬の先生
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地下牢教室の扉を派手な音を立てずに開けたスネイプ先生は、かさばりそうな黒いローブをなびかせて教壇に立った。

浮かれる気持ちを抑えきれず、フィービーは椅子のうえで上下する。
となりに座っていたハンナは、ぎょっとしたように目を見開いた。

スネイプ先生はフリットウィック先生と同じように、出席を取りはじめた。


「フィービー・ディゴリー」

「はいっ! 山羊の胃から取り出されるベゾアール石は、猛毒を持つ魔法生物にも効果はありますか?」


返事と同時に質問をしたフィービーを、ハッフルパフ生とレイブンクロー生はそろって度肝を抜かれたように見てくる。

バジルにスネイプ先生と2人きりになってはいけないと釘を刺されたから、授業中に質問することにしたのだ。


「魔法生物の毒は強力で特殊である。たいていの薬に対する解毒剤になるベゾアール石でも、解毒できない場合がある」

「勉強になりました。ありがとうごさいます、スネイプ先生」

「質問は授業後にするように」


減点されるかと思ったけど、スネイプ先生は何事もなかったように出席を取り続けた。

がっくり肩を落とすフィービーに、ハンナは未知の生物を見るような目を向けてくる。


出席を取り終えたスネイプ先生は、冷たい双眸で生徒を見渡した。


「このクラスでは、魔法薬調剤の微妙な科学と、厳密な芸術を学ぶ。このクラスでは杖を振り回すようなバカげたことはやらん。そこで、これでも魔法かと思う諸君が多いかもしれん」


先生は呟くようにごく静かに話したが、生徒はひと言も聞き漏らさなかった。


「フツフツと沸く大釜、ユラユラと立ち昇る湯気、人の血管の中をはいめぐる液体の繊細な力、心を惑わせ、感覚を狂わせる魔力……」


静まり返った教室に、スネイプ先生の低い声が響く。


「諸君らがこの見事さを真に理解するとは期待しておらん。我輩が教えるのは、名声を瓶詰めにし、栄光を醸造し、死にさえふたをする方法である──ただし、我輩がこれまでに教えてきたウスノロたちより諸君がまだましであればの話だが」


叡智を掲げるレイブンクロー生の何名かは、自分はウスノロではないと証明しようと身を乗り出していた。

映画とは少し違う演説を聞けて感慨に浸っていたフィービーは、スネイプ先生に「ミス・ディゴリー」と呼ばれて我に返った。


「アスフォデルの球根の粉末にニガヨモギを煎じたものを加えると何になるか?」


はしゃぎすぎたせいか、難易度の高い問題が飛んできた。

フィービーは魔法薬学を得意科目にしたかったので、しらばっくれずに答えることにした。


「眠り薬になります。あまりに強力なため、生ける屍の水薬とも呼ばれます」


ハッフルパフとレイブンクローの双方から、どよめきが起こった。

カンニングしたも同然だから後ろめたい。
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