あらがうもの
□魔法薬の先生
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1年生は金曜の午後は授業がない。
フィービーの同室者たちはお菓子や紅茶を持って湖のほとりに赴いて、お茶会をするらしい。
「ごめん、今回はパス。私は図書室に行くから」
「フィービーは宿題をほとんど仕上げているんでしょう? まさか授業の予習をするつもり?」
「ううん。ドラゴン飼育の本を探したいんだ。パパとママにどんなに頼んでも買ってもらえなかったんだよね」
本音を言えば午後いっぱいドラゴンの書物を読みふけりたいけど、他者に取り憑いたゴーストを強制退去させる方法を探すのが目的だ。
実体のない例のあの人をゴーストと同列に見なしていいのか分からないが、念のため調べておこうと思いついた。
方法を見つけたところで、クィレルから例のあの人を追い払う試みを、レギュラスが承認するとは思えないが。
昼食をとり終えたフィービーが図書室のある階に向かおうとした矢先、ハリーに捕まった。
「これからハグリッドのところに行って、ヘドウィグの様子を見に行くんだ。フィービーも一緒に来る?」
──フィービーのパパが買ったコダマネズミのせいで、僕のふくろうは負傷したんだぞ。ヘドウィグのことを忘れていたとか言わないよね?
笑顔のハリーから副音声が聞こえた気がした。
フィービーは脅迫を含んだ魔法界の英雄の誘いを断りきれず、ハリーやロンと共に城を出た。
禁じられた森の端にある丸太小屋が、ハグリッドの住まいだった。
ハグリッドの治療を受けたヘドウィグは全快したらしく、ハリーから手紙を受け取るなり元気よく青空に飛び立っていった。
「くつろいでくれや」
ハグリッドはお茶の支度をはじめた。
焚火にかけられた銅のやかんやティーポットは規格外に大きい。
「僕の右側に座っているのがロンで、左側にいるのがフィービーだよ」
「赤毛の男の子はウィーズリー家の子かい。え? おまえさんの双子の兄貴たちには手を焼かされているぞ。ジェームズやシリウスと互角の勝負かもしれん」
ハグリッドは大型犬のファングに耳を舐められていたロンから、フィービーに視線を移して、ひげの下でにっこり笑った。
「ほかの寮の女の子ともう仲良くなるなんて、ハリーは隅に置けないな」
「私はヘドウィグの様子を見にきただけなんで。ハリーと特に仲良くないから」
「仲良くしたいと思ったから、フィービーを誘ったんだよ」
むっとしたように言ったハリーはロックケーキにかぶりついたが、クリスマスプディングに銀貨が入っていたときのような反応をした。
ケーキをさり気なく皿に置いたハリーは、初めての授業についてハグリッドに話しはじめた。
ハリーとロンは1日目の朝に、立ち入り禁止の廊下の入口でフィルチと鉢合わせしたらしい。
ハリーたちは道に迷っただけだと言い訳したようだが、生徒を退学に追いこむ機会を狙っているフィルチが信じるわけがない。
「通りかかったクィレルがフィルチから解放してくれなきゃ、僕らは地下室に閉じこめられていたよ。クィレルのことは見直したけど、授業はつまんないよな」
「あのターバンはやっかいなゾンビをやっつけたときに、アフリカの王子様がお礼にくれたものだってクィレルは授業中に話していたけど、嘘くさいよね」
ハリーの発言に乗じて、フィービーは気になっていたことをハグリッドに聞いた。
「クィレル……先生って、いつからターバンを巻くようになったの? 7月に漏れ鍋で見かけたときは、普通の格好をしていたけど」
ハグリッドの話では、クィレルは8月中旬にホグワーツに来たときにはターバンを巻いていたようだ。
「クィレル先生は1年間休暇をとって実地で経験を積んでいたんだが……どうやら黒い森で吸血鬼に出会ったらしい。その上、鬼婆といやーなことがあったらしくてな。それ以来、人が変わってしもうた。哀れなものよ。秀才なんだが。生徒を怖がるわ、自分の教えている科目にビクつくわ」