あらがうもの

□ホグワーツ特急に乗って
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「ようやく到着だ。駅構内に暖炉があれば便利なんだが」


漏れ鍋から歩いてキングズ・クロス駅にたどり着いたエイモスは、フィービーのトランクをカートに乗せながらぼやいた。

9番線と10番線を探しているとき、「すみません」と声をかけられた。
暗灰色のスーツを着た男性は周囲を見渡し、声を落として訊ねてきた。


「あなた方はホグワーツをご存知ですか?」

「はい。間違っていたら失礼。魔法族ではない方ですか?」


エイモスが問い返すと、話しかけてきた男性はほっとしたように、「そうです」と答えた。


「私と妻は、魔法の存在を今年初めて知りました。息子のジャスティンはどうやら魔法の力があったようで」


黒褐色の巻き毛の少年が前に出た。

少年のそばに寄り添った上品そうな女性は、入念にセットした頭の上に、髪飾りなのか小さな帽子なのか判別がつかないものを斜めにつけている。

ジャスティンの父親は、9と4分の3番線への行き方を詳しく教えてほしいと言った。


入学許可証を持ってきた魔女に説明を受けたが、柵に向かって走るという方法がにわかに信じられず、ほかの人はどうやっているのか先ほどから観察していたという。

魔法使いらしい人は何度か見かけたが、柵の付近で見失ってしまうので、不安になって声をかけたようだ。


「セド、ジャスティンと一緒に行ってあげなさい」

「分かったよ、父さん」


ジャスティンが両親と別れの挨拶をかわすのを見届けた後、セドリックは彼に9と4分の3番線に行くコツを教えた。


フィービーは先にモニカと並んで、柵に向かって走った。
視界をさえぎる白い煙が晴れると、真紅の蒸気機関車が目に飛びこんだ。

去年セドリックを見送るときも見たけど、自分がこれから特急に乗ってホグワーツに行くと思うと、抑えきれないほどわくわくする。

ホームの上にある【ホグワーツ特急11時発】という掲示や、9 3/4と書かれた鉄のアーチを振り返って見ていたら。


「フィービー」


と、下のほうから呼ぶ声が聞こえた。

フィービーは柱の陰に隠れて、柳で編んだ籠のふたを開けた。

底に敷いた緑のタオルの上で丸くなったバジルが、灰色の瞳で見上げてきた。
黒猫の左耳には銀製のシンプルなカフスが光っている。
レギュラスが自作した、探索呪文避けの魔法道具らしい。

現在はウィーズリーの双子が持っているであろう忍びの地図に、レギュラス・ブラックの名前が出ないようにするための対策だ。

それは理解できたけど。


「ねえ……やっぱり首輪の形にしたほうが、目立たないと思うんだ」

「首輪をつけるくらいなら、犬になったほうがマシです」

「バジル、犬にも変身できたの?」

「できませんよ。しようとも思いません。絶対にあり得ないことの例えとして出したまでです」


バジルが犬を嫌うのは猫のアニメーガスだからというより、シリウスが犬のアニメーガスだからだろう。

そんなことより、とバジルは話を変えた。


「最後にもう一度だけ忠告しておきます。これ以上、ハリー・ポッターと関わらないで下さい。余計なことをしたら今度こそ記憶を消しますよ」

「私に閉心術を習得させたのにまだ脅すの?」


入学までの1ヶ月間、フィービーはレギュラスに閉心術を叩きこまれた。
ダンブルドア校長やスネイプ先生、もしくは例のあの人が寄生したクィレルに万が一、目をつけられて開心術をかけたれたときの対策だ。


レギュラスの開心術を防げるようになるまで時間がかかったので、フィービーは過去の記憶を洗いざらい彼に見られてしまった。

家族に知られるとまずい悪戯の数々や、女の子の秘密まで何もかもだ。

お嫁にいけないと嘆くフィービーに対し、レギュラスが『ドラゴン使いは独身者が多いらしいですよ』となぐさめだか分からない言葉をかけてきたことは、記憶に新しい。


「闇の帝王が本気になれば、フィービーの閉心術を破ることなど造作もありません。とにかく軽挙妄動は謹んで下さい」

「……おしゃれ頑張ってる猫に言われても説得力ないよ」

「なにか言いましたか?」

「いいえ。別に。なにも」
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