あらがうもの

□ホグワーツ特急に乗って
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〜レギュラス視点〜



「私の代わりに、ハリーとロンが同じコンパートメントに乗ったか確認してきてよ」


さもなきゃモフり倒すとフィービーに脅されたレギュラスは、仕方なく通路に出て、ふざける生徒たちの足元をすり抜けた。

さきほどすれ違った生徒が、最後尾近くの車両にハリー・ポッターがいるらしいと話していたのを聞いたので、やつの居場所はわかっている。


(それはともかく)


猫の姿というのは不便かつ不愉快極まりない。

昔から騒々しいと思っていた生徒同士の話し声が、さらに耳障りに感じる。

自分より10歳以上も年少の子供等の足元を、這いずり回らなくてはいけないことも屈辱的だ。


それでもレギュラスが黒猫に身をやつしているのは、フィービーやセドリックやドラコを見守って、陰ながら支援するため。


ホグワーツの必要の部屋に秘された、分霊箱を破壊することも重要な目的のひとつだ。

フィービーが夢に見た芝居では、髪飾りの分霊箱をめぐって、ゴイル家の子息が命を落としてしまっていた。
ゴイル家は昔からブラック家とつきあいのある純血家系なので、跡継ぎが絶える事態は回避したい。


レギュラスは様々な決意を胸に、かつての学び舎に潜入を試みようとしているのだが、本当にこれでよかったのかという疑念は消えない。

その思いを強くしたのは、フィービーがダイアゴン横丁でポッターをはじめとする面々と、関わってしまったと聞いたときだ。

自分は地味だからハリーはきっと覚えてないとかフィービーは言っていたが、スネイプに握手を求めた時点で、ポッターやシリウス、スネイプ本人に強烈な印象を与えたことは想像に難くない。


(目立つ行動はしないと誓ったくせに)


セブルス・スネイプは死喰い人の中で、もっとも強かで油断ならない男だとレギュラスが忠告しても、フィービーは聞き入れた様子はなかった。

むしろ、うっとりしていた。


恋情を抑えきれず心に隙を作れば、閉心術は意味をなさなくなる。
事態が手遅れにならないうちにフィービーに忘却術をかけようかと、レギュラスが何百回目になる検討をしていたとき。


「やあ、ポッター君。このコンパートメントに君がいるって、汽車の中じゃその話で持ちきりだよ」


声はあどけない少年のものだが、相手を見下すことに慣れた大人を真似た話し方。

レギュラスはもしやと思い、最後尾の車両にあるコンパートメントのひとつをのぞいた。


入口を塞いでいたのは3人の少年。
小柄な少年の脇を固めるように、体格のいい少年が2人立っている。
一番上背のある少年は鍋底のような髪型をしており、もう1人の腕の長い少年はたわしのように短く髪を刈りこんでいる。


「ああ、こいつはクラッブで、こっちがゴイルだ」


ナルシッサと同じプラチナブロンドの髪を、ルシウスのように後ろに撫でつけた少年は、自信たっぷりに名乗った。


「改めまして。僕はマルフォイ。ドラコ・マルフォイだ」


すると座席に腰掛けていた赤毛の少年が、笑いをごまかすように咳払いした。


人の名前を聞いて笑うなんて失礼な。
これだから血を裏切るウィーズリーの一族は。

レギュラスと同じことを思ったらしく、ドラコは声に棘を含ませて言い返した。


「僕の名前が変だとでも言うのかい? 君が誰だか聞く必要もないね。父上がおっしゃっていたよ。ウィーズリー家はみんな赤毛で、そばかすで、育てきれないほどたくさん子どもがいるってね」


ドラコは鳥の巣頭の眼鏡小僧に向き直って、「ポッター君」と言った。


「君の名付け親のシリウス・ブラックは、僕の従叔父にあたるんだ。彼は……あー……独特な考えを持っているから、家柄のいい魔法使いとそうでない者との区別を、君に教えていないかもしれない」


ポッターの反感を買わないため、ドラコはシリウスを罵倒するのを避けた。

文字通りの愚兄のせいで、従甥に無用な気遣いをさせてしまったので、レギュラスは居たたまれない気分になった。
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