あらがうもの

□ホグワーツ特急に乗って
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「グリンゴッツのことは聞いたかい? 誰かが特別警戒の金庫を荒そうとしたらしい。毎日のように預言者新聞に記事が出ている」

「僕の家は魔法界の新聞はとっていないので、そのニュースは初めて知りました。銀行強盗は捕まったのですか?」

「まだ捕まってないよ。だから大ニュースになったのさ」


フィービーとしては、9月に入る前にグリンゴッツ侵入事件が起きたことが大ニュースだった。

レギュラスはかなり深読みして、芝居の元となった原作本では、7月31日に強盗事件が起きる展開だったのではとないかと言い出した。

たしかにクィレルはホグワーツの教師だから、夏休み中に犯行に及んだほうが周囲に怪しまれなさそうだ。


「世界で一番安全な場所として知られる、グリンゴッツに忍びこむ危険を冒しておきながら、なにも盗らなかったことも謎だ。例のあの人が陰で糸を引いているんじゃないかって、みんな怖がっている」

「車内販売よ。何かいりませんか?」


コンパートメントの戸が開いて、えくぼのある魔女が顔をのぞかせた。

フィービーは遊びで、百味ビーンズを購入した。

マーサはドルーブルの風船ガム。

アーニーは大鍋ケーキとかぼちゃジュース。

昼食とおやつと水筒を持参していたジャスティンは、試しに蛙チョコレートを買っていた。


「ジャスティンがくれた紅茶、すっごくおいしい。ミルク味のファッジとよく合う」

「気に入ってもらえて何よりです。セドリックにもファッジを分けてあげてくださいね」

「ジャスティンは防水魔法を使えるのかい? 君がくれた紙製のコップは紅茶が漏れないよ」

「紙コップは内側に防水加工が施されているのよ」

「マーサ、マグル製品に詳しいんだね」

「私のママはマグル生まれの魔女だから」

「うわぁっ! チョコレートが動いた……これって本物の蛙ですか?」

「口に入れればただのチョコになるよ。百味ビーンズを試してみる?」

「名前のとおり、本当に色んな味があるから気をつけた方がいい。普通のもあるけどね───チョコやイチゴやマーマレードとか。僕は以前、生魚味に当たってひどい目にあった」

「調理法さえ間違わなきゃ、生魚もおいしいのに。何色のビーンズだった?」


フィービーが生魚を食べると聞いて、アーニーはどん引きしていた。

ジャスティンは悩んだ末、ひとつだけ食べてみると宣言した。こげ茶色のビーンズは、エスプレッソの味がしたらしい。

マーサは無難な味のビーンズを選ぶのが得意らしく、危険そうな深緑のビーンズをためらいなく口に放り込んで、「スイカ味よ」とにっこり笑ってみせた。


「フィービー、そのビーンズは危険かも……」

「そうかな? さっきジャスティンが食べていたのと同じ色だけど……なんと、耳くそだ!」


フィービーがかぼちゃジュースをラッパ飲みしたとき、ふたたび戸が開いた。

入口にあらわれたのは、涙ぐんだ丸顔の男の子だ。


「ごめんね。僕のヒキガエルを見なかった?」


コンパートメントにいた全員が首を横に振ると、丸顔の男の子はさらに涙をあふれさせた。

続いて、制服のローブに着替えた女の子がやってきた。


「誰かヒキガエルを見なかった? ネビルのがいなくなっちゃったの」


ふわふわした栗色の髪に、聡明そうな茶色の瞳。
ちょっと大きな前歯が賢いリスを連想させる女の子は、ハーマイオニーだろう。


ネビルのヒキガエルを探す手伝いをしながら、ハリーがロンと同じコンパートメントに乗ったかどうか確認しに行こう。

そう思ったフィービーが立ち上がりかけたとき、荷物棚から黒猫が降ってきた。


バジルが執拗に妨害してきたせいで、フィービーはヒキガエル捜索隊に加われなかった。
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