あらがうもの
□ホグワーツ特急に乗って
4ページ/6ページ
「グリンゴッツのことは聞いたかい? 誰かが特別警戒の金庫を荒そうとしたらしい。毎日のように預言者新聞に記事が出ている」
「僕の家は魔法界の新聞はとっていないので、そのニュースは初めて知りました。銀行強盗は捕まったのですか?」
「まだ捕まってないよ。だから大ニュースになったのさ」
フィービーとしては、9月に入る前にグリンゴッツ侵入事件が起きたことが大ニュースだった。
レギュラスはかなり深読みして、芝居の元となった原作本では、7月31日に強盗事件が起きる展開だったのではとないかと言い出した。
たしかにクィレルはホグワーツの教師だから、夏休み中に犯行に及んだほうが周囲に怪しまれなさそうだ。
「世界で一番安全な場所として知られる、グリンゴッツに忍びこむ危険を冒しておきながら、なにも盗らなかったことも謎だ。例のあの人が陰で糸を引いているんじゃないかって、みんな怖がっている」
「車内販売よ。何かいりませんか?」
コンパートメントの戸が開いて、えくぼのある魔女が顔をのぞかせた。
フィービーは遊びで、百味ビーンズを購入した。
マーサはドルーブルの風船ガム。
アーニーは大鍋ケーキとかぼちゃジュース。
昼食とおやつと水筒を持参していたジャスティンは、試しに蛙チョコレートを買っていた。
「ジャスティンがくれた紅茶、すっごくおいしい。ミルク味のファッジとよく合う」
「気に入ってもらえて何よりです。セドリックにもファッジを分けてあげてくださいね」
「ジャスティンは防水魔法を使えるのかい? 君がくれた紙製のコップは紅茶が漏れないよ」
「紙コップは内側に防水加工が施されているのよ」
「マーサ、マグル製品に詳しいんだね」
「私のママはマグル生まれの魔女だから」
「うわぁっ! チョコレートが動いた……これって本物の蛙ですか?」
「口に入れればただのチョコになるよ。百味ビーンズを試してみる?」
「名前のとおり、本当に色んな味があるから気をつけた方がいい。普通のもあるけどね───チョコやイチゴやマーマレードとか。僕は以前、生魚味に当たってひどい目にあった」
「調理法さえ間違わなきゃ、生魚もおいしいのに。何色のビーンズだった?」
フィービーが生魚を食べると聞いて、アーニーはどん引きしていた。
ジャスティンは悩んだ末、ひとつだけ食べてみると宣言した。こげ茶色のビーンズは、エスプレッソの味がしたらしい。
マーサは無難な味のビーンズを選ぶのが得意らしく、危険そうな深緑のビーンズをためらいなく口に放り込んで、「スイカ味よ」とにっこり笑ってみせた。
「フィービー、そのビーンズは危険かも……」
「そうかな? さっきジャスティンが食べていたのと同じ色だけど……なんと、耳くそだ!」
フィービーがかぼちゃジュースをラッパ飲みしたとき、ふたたび戸が開いた。
入口にあらわれたのは、涙ぐんだ丸顔の男の子だ。
「ごめんね。僕のヒキガエルを見なかった?」
コンパートメントにいた全員が首を横に振ると、丸顔の男の子はさらに涙をあふれさせた。
続いて、制服のローブに着替えた女の子がやってきた。
「誰かヒキガエルを見なかった? ネビルのがいなくなっちゃったの」
ふわふわした栗色の髪に、聡明そうな茶色の瞳。
ちょっと大きな前歯が賢いリスを連想させる女の子は、ハーマイオニーだろう。
ネビルのヒキガエルを探す手伝いをしながら、ハリーがロンと同じコンパートメントに乗ったかどうか確認しに行こう。
そう思ったフィービーが立ち上がりかけたとき、荷物棚から黒猫が降ってきた。
バジルが執拗に妨害してきたせいで、フィービーはヒキガエル捜索隊に加われなかった。