あらがうもの
□ホグワーツ特急に乗って
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セドリックが空いているコンパートメントを見つけてくれた。
「フィービー、僕の箒とアポロも荷物棚に乗せてくれるかい? そのあいだに、僕らのトランクを積み込んでおくよ」
「セド兄、ひとりでトランクを運べる? パパを呼ぼうか?」
するとセドリックは苦笑して、「ご心配なく」と言った。
「トランクを運ぶのはこれが初めてじゃない。僕ひとりで十分……なんだこれ、思ったより重いな」
「教科書のほかに、『ホグワーツの歴史』や『世界のドラゴンと生息地──立体パノラマ写真集』とか入っているからね」
「なんでそんな重たい本を持ってきたんだ」
「あの、僕も手伝います」
兄とジャスティンが頑張ってくれたおかげで、3人のトランクは無事コンパートメントの隅に収まった。
「ありがとう、ジャスティン、セド兄様?」
「フィービー……浮かれるのはわかるけど、少し落ちつきなよ。ああ、ほら、鼻の脇に煤がついているじゃないか」
セドリックはポケットからハンカチを取りだして、フィービーの鼻を拭った。
「あんまひ、こふらないれ」
強く擦ってないよ、とセドリックは笑いながら言った。
「汚れはとれたけど、煤けているね。トイレで顔を洗っておいで。ハンカチは持ってる? 場所はわかる? 僕も途中までついていこうか?」
妹が入学するから、兄は普段より過保護になっているようだ。
ご心配なく、と答えたフィービーは通路に出た。
家族や友人とおしゃべりする生徒や、コンパートメントをとりあう揉め事などを見て歩いた。
同い年くらいの女の子が列車の戸口の階段から、重いトランクを押し上げようと苦戦している。
「手伝おっか?」
「あ、うん、お願い」
シナモン色の髪をハーフアップにした女の子は、そばかすの散った白い肌に浮かんだ汗を手の甲で拭った。
2人がかりでも無理だったので、セドリックを呼んで手伝ってもらった。
「ありがとう」
「どういたしまして」
そのとき、汽車の出入口からモニカの呼ぶ声が聞こえた。
フィービーはセドリックと一緒に一旦、汽車から降りる。
モニカは魔法のハンドバックから、瓶入りのかぼちゃジュースとサンドイッチのお弁当を取り出して、息子と娘に渡した。
「ホグワーツに着いたらセドにアポロを借りて、ふくろう便を送ってちょうだいね」
「どの寮に入っても楽しく過ごせるさ。スリザリンはちょっとアレだが。パパとしては、ハッフルパフに入ってほしい」
「エイモスったら、娘にプレッシャーを与えないで下さいな」
「私、ハッフルパフに行きたいな。ママがいたレイブンクローも素晴らしい寮だけど、ハッフルパフにはセド兄がいるから」
満足そうにうなずいたエイモスは息子の両肩をつかんで、「いいか、セド」と言い聞かせた。
「フィービーがどの寮に行っても、しっかり面倒を見るんだぞ」
「お願いね、セド」
セドリックは表情を引き締めて、うなずいた。
フィービーは両親を抱きしめて、お別れのキスをかわした。
セドリックに手を貸してもらって、フィービーも汽車に乗りこむ。
兄と一緒に車窓から身を乗り出して、エイモスやモニカから最後に、もう一度キスや忠告を受けているうちに、出発の笛が鳴った。
「「いってきます!」」
「「気をつけて!」」
汽車が滑るように動きだすと、手を振る両親が遠ざかっていった。