あらがうもの
□ホグワーツ特急に乗って
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セドリックがとってくれたコンパートメントには、ジャスティンのほかに2人の子が座っていた。
ひとりは先ほど一緒にトランクを運んだ、シナモン色の髪とサファイアのような瞳を持つ女の子。
もうひとりは、やわらかそうな黒髪にぽっちゃり体型の男の子。
彼はよく通る声で自己紹介を始めた。
「僕はアーネスト・マクミラン。アーニーと呼んでほしい。今年ホグワーツに入学するんだ」
「よろしく、アーニー。僕はセドリック・ディゴリー。ハッフルパフの3年生だ。妹のフィービーも新入生だよ」
するとアーニーはこっちをじろじろ見てきたので、フィービーはつっけんどんに言った。
「似てない兄妹だなって目で見ないでくれるかな、アーネスト」
「フィービー、新しい友達に突っかかるんじゃないよ」
「えっと、私も新入生なの。マーサ・ジョイスよ」
「僕はジャスティン・フィンチ-フレッチリーと言います。僕も初めてホグワーツに行きます」
突然コンパートメントの戸が開いた。
硬そうな黄土色の髪を持つ男子と、赤みがかった金髪を肩の上まで伸ばした男子が入ってきた。
背丈と雰囲気から察するに、上級生だろう。
「よう、セド。選抜の話をしたいんだけど」
「おっと、セドのとなりに女の子が座っているぞ。下級生なのに積極的だな」
「ファーガス、そうじゃないみたいだぞ。この子の顔立ちをよく見てみろよ」
2人の上級生はフィービーを凝視して、セドリックと見比べてきた。
アーニーと同じことを思っているのだろう。
げんなりするフィービーを、セドリックがさりげなく背中に隠した。
髪の長いほうの男子が笑いながら、「なるほどね」と言った。
「こんなに可愛い妹がいるから、セドは俺らを家に招待してくれなかったのか」
「ちょ、どんだけ俺らのことを警戒していたんだよ。友達がいのないやつだな」
「妹を紹介しろってしつこく迫るやつに、そんなこと言われたくないよ」
「誤解を招く言い方をするなよ」
「そうだ、そうだ。俺らがセドの妹に変なことするわけないだろ。というわけだから、お兄さんたちのコンパートメントに行こうか?」
「ファーガス、オスカー、少し外で話をしよう」
セドリックは低音で退席を告げながら、2人を押しだすようにしてコンパートメントを出た。
兄は身内のひいき目を抜きにしても完璧すぎるので、同年代の子にとっつきづらいと思われているのではないかと気になっていたが、そうでもないようなのでフィービーは安心した。
微妙な沈黙を破るように、マーサがあえて朗らかな声を出した。
「話は変わるけど、私、9と4分の3番線でシリウス・ブラックを見かけたの。ハリー・ポッターに付き添ってきたのかしら」
「ハリー・ポッターってもしかして、1歳のときにヴォルデモートを、」
「ジャスティン! その名前を言うなんて……正気かい?」
アーニーは悲鳴をあげ、フィービーとマーサも恐怖で息をのんだ。
「すみません……名前を言ってはいけないあの人って、本当にそういう意味だったのですね。書店で買った『近代魔法史』を読んで少し勉強したのですが、僕は魔法界のことをほとんど何も知らないんです」
「それなら僕が魔法界のことを教えてあげるよ。僕は9代前までさかのぼれる、魔法使いと魔女の家系だからね」
「アーニーは純血主義者?」
フィービーは琥珀色の瞳を細めて聞いた。
否定するように手を振ったアーニーは、「誤解しないでくれ」と言った。
「僕は自分の血筋を重んじているが、決してスリザリンの信奉者ではない。例のあの人がハリー・ポッターに倒されて、本当によかったと思っているよ」
あの人と言えば、とアーニーは声を低くした。