あらがうもの

□家族の再会・後編
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〜レギュラス視点・続き〜



「おい、レギュラス。いい加減その老いぼれをここから追い出せ。話の邪魔だ」

「クリーチャーは屋敷の主に仕えることになるのですから、彼抜きでは相続の話はできません」


きっぱりと言い切ったレギュラスは、我慢の限界が近そうなシリウスの気を逸らすために話を変えた。


「それで、シリウスは私が死んだ場合、誰を相続人にするつもりですか?」


芝居のシリウスは自分の死後に、グリモールド・プレイス12番地とクリーチャーの所有権をポッターに譲渡する手続きを踏んだのだろう。
でなければ芝居のクリーチャーがロケットの分霊箱のことを、赤の他人のポッターに打ち明けるわけがない。


「俺の財産を託せる人物はハリーしかいないが……俺は闇の魔術にまみれた屋敷とクリーチャーを、ハリーに押しつけたくない」

「父上が生前、魔法使いが知るありとあらゆる安全対策をこの屋敷に施してくださいましたから、ポッターの旗色が悪くなったときに隠れ家として使えると思います」


ブラック家の人間ではないポッターがこの屋敷を相続することになるのは、正直気に入らない。クリーチャーも物凄く嫌がっている。

けれど、芝居通りに魔法省が例のあの人の手に落ちてポッターたちがお尋ね者になったとき、フィービーも追われる身になるかもしれない。
彼女がポッターたちと共に逃亡する可能性もあるから、避難場所を提供してあげたいと思った。


「お前がハリーを案じて大事な実家を差し出すなんて……まさかお前もスネイプのように、ジェームズに何か借りが──」

「ジェームズ・ポッターに借りを作ったことは一度もありません」


シリウスが聞き捨てならないことを口走りそうになる前に、レギュラスは早口で遮った。


「私がハリー・ポッターに味方するのは、私も例のあの人に逆らう者だからです」


レギュラスの言葉を聞いたシリウスは、不信感丸出しの顔をしていた。
それが当然の反応だ。死喰い人の言うことを頭から信じるフィービーのようなお人好しは、そういないだろう。

……長く一緒にいたせいか、ふとした拍子に彼女のことを思い出してしまう。これではいけない。

玄関ホールで回想していたレギュラスは、扉を開ける音を聞いて我に返った。
いそいそと駆け寄ってきたクリーチャーを見て、レギュラスは息を呑んだ。


「レギュラス様、夕食の支度ができました。食事の前に手を洗ってきてください」


はきはきと告げたクリーチャーは真っ白なタオルを腹に巻き、清潔にした耳の毛は綿のようにふわふわになっている。
昔のように小奇麗な姿になった彼を見て、レギュラスは喜びより驚きのほうが先行した。


「クリーチャー、その格好は……」

「以前のようにレギュラス様にお仕えすることになりましたので、少々身繕いをしました」


クリーチャーの本当の主人は、グリモールド・プレイス12番地の所有者であるシリウスなのだが。

シリウスは相変わらずクリーチャーを毛嫌いしているから、忠誠を尽くす気になれないのだろう。


「……クリーチャーの手料理を食べるのは久し振りだから、すごく嬉しいよ」


嬉しいのは本当なのに、申し訳ない気持ちのほうが大きかった。

今までも、そしてこれからも、クリーチャーには酷な事ばかり強いている。
いっそレギュラスのことを憎んでくれたら、これは罰なのだと素直に受け入れられるのに。

灰色の大きな目を潤ませたクリーチャーは、しわだらけの顔をほころばせて満面の笑みを広げる。


「クリーチャーめもレギュラス様のために腕を振るうことができて、嬉しゅうございます」


クリーチャーのおかげで分霊箱を1つ破壊することができたと知れば、シリウスはブラック家に仕える屋敷しもべ妖精に対する冷淡な態度を改めるだろうか。

レギュラスはクリーチャーと共に厨房へと引き返しながら考えた。

自分が戦いを生き残れる保証は無いから、例のあの人が完全に滅んだ後にシリウスが洞窟での出来事を知るように、段取りをつけておかないといけない。

だけど、今はその前に。


「クリーチャー、今日の夕食は何だい?」

「レギュラス様がお好きなステーキ・キドニーパイを作りました」

「楽しみだな。クリーチャーが作るステーキ・キドニーパイは絶品だから」


昔のようにクリーチャーと温かなひと時を過ごして、今の自分にとって一番大切な存在は誰なのか再確認しよう。



〜レギュラス視点・終わり〜
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