あらがうもの

□リドルの館
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〜レギュラス視点〜



「おやすみなさい、フィービー」


元の姿に戻ったレギュラスの言葉は、夢の世界に旅立ったフィービーの耳に届いていないだろう。

レギュラスは杖を振って、部屋に漂う香りを消した。キャンドルに含まれていた睡眠導入の効果があるアロマは、猫には効かないけどレギュラスの眠気を促してくる。

それからベッドの脇に立って、寝息を立てているフィービーを見下ろした。

猫の姿で初めて出会った6年前に比べて、この子は大人びてきたけど寝顔はまだあどけない。

余計な思いを頭から追い出してから、レギュラスは杖先を彼女の額に向けた。


「オブリビエイト」


忘却呪文を唱えて、真夜中に起きて黒猫と会話をした数分間の記憶を消す。

どうやらフィービーは寝る前にあれこれ悩むから、悪夢を見るのだと最近判明した。

とはいえ、毎晩こうやって忘却術をかけるわけにはいかない。忘却術を浴びせすぎると、記憶の混濁が起きるからだ。

回数制限をしているとはいえ、寝ているうちにフィービーの記憶を奪っていることに違いはない。それに気づけば、彼女は以前のようにレギュラスに対して警戒心を抱くと思ったのに。

先ほどのフィービーの反応から察するに、気づいた上で知らん振りしていた。おそらく彼女は、芝居の記憶を今更すべて消されることはないと結論付けたのだろう。


「甘いですよ」


そういうレギュラスの考え方も、すっかり甘くなってしまったのだけど。

ほんの一時の気休めにすぎないとわかっていても、フィービーに安らぎを与えたい。

これから数年間はずっと気を張り詰める日々が続くだろうから、せめて今だけは心穏やかに。

そう願わずにはいられない、一方的なこの気持ちは何なのか。突き詰めてはいけないと思っていたのに、先月に破壊した分霊箱に暴かれてしまった。

愚かしい想いを自覚したところで、彼女をどうこうしようなんて思わない。

レギュラスの左腕には、決して消えない罪の証が刻印されている。

フィービーとは生きる世界が違うのだから、彼女を見守れるだけで十分だ。

本当にフィービーのことを大切に思うなら、レギュラスは彼女の前から姿を消したほうがいいのだが。来年の夏を迎えるまで、フィービーのそばにいなくてはいけないだろう。

クィレルに取り憑いていた闇の帝王が、1年生では扱えない呪文や護符を使ったフィービーのことを不審に思って、探りを入れるようにバーティに命じていたら一大事だ。

学生時代はレギュラスと交友関係にあったバーティ・クラウチは、闇の帝王の狂信者で、残忍かつ狡猾な男だ。

バーティはアラスター・ムーディに化けてホグワーツに潜入するから、生徒に手荒なことはしないなんて到底思えない。辣腕の闇祓いだったムーディになりきって、訓練と称してフィービーに開心術をかけたり、真実薬を飲ませたりしそうだ。

それに、セドリックが代表選手に名乗りをあげるのを阻止しなくてはいけない。

新学期に入ってもディゴリー兄妹がすれ違ったままだった場合、セドリックが炎のゴブレットに自分の名前を入れられないようにするため、レギュラスが秘密裏に動く必要がありそうだ。

レギュラスはため息をついてから、部屋のドアにかけた防音呪文を終了させる。

そしてもう一度杖を振って机の引き出しを開け、出しっぱなしにされていた花びらを閉じこめたキャンドルをしまった。



〜レギュラス視点・終わり〜
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