あらがうもの

□まね妖怪
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席に着いたフィービーが再び鍋を火にかけたら、机の前に座ったスネイプ先生がささやくような声で話しかけてきた。


「先学期の襲撃事件は、ミス・ディゴリーの心に深い傷を与えたようだ。君のまね妖怪があのような姿になったのが、何よりの証拠。まだ癒えぬ傷をえぐられて、さぞ辛かったであろう」


あのスネイプ先生が自寮以外の生徒に、いたわりの言葉をかけるなんて。
フィービーは顔をあげてスネイプ先生をまじまじと見つめて、ポリジュース薬で化けた偽物じゃないかと確かめそうになったが、思いとどまった。
耳にたこができるくらい警告されたせいか、罠です、とレギュラスの声が頭の中に響いたからだ。


「3年生が習うべき闇の生物は、ほかにいくらでもいるというのに……ルーピンは生徒の弱みを握るために、まね妖怪と対決させたに違いない」


まね妖怪がレギュラスに変身したことを追及されるのかと思いきや、スネイプ先生は憎々しげに独白を続けた。


「ミス・ディゴリーが悩みや打ち明けづらいことを抱えているのならば、寮監に話したまえ。生徒の人気取りにやっきになっている新任教師より、スプラウト先生のほうが親身になってくださる。君が親しくしているポッターの保護者だからといって、リーマス・ルーピンを信用するのは危険だと忠告しておこう」


最後の忠告を言いたかったのかと納得したフィービーは、縮み薬がぐつぐつ煮える鍋の中身をかき回しながら「はい」と返事をした。

まもなく授業が終わるというとき、スネイプ先生は大鍋のそばで縮こまるスーザンのほうに大股で近寄った。


「諸君、ここに集まりたまえ。ロングボトムのヒキガエルがどうなるか、よく見たまえ。なんとか縮み薬が出来上がっていれば、ヒキガエルはおたまじゃくしになる。もし、造り方を間違えていれば──我輩は間違いなくこっちだと思うが──ヒキガエルは毒にやられるはずだ」


スネイプ先生はネビルのペットを左手で摘み上げ、小さいスプーンをスーザンの鍋に突っこみ、いまは緑色に変わっている水薬を2〜3滴、ヒキガエルの喉に流しこんだ。

ほとんどの生徒が恐々見守る中、一瞬あたりがシーンとなった。

ヒキガエルがごくりと薬を飲んだ途端、ポンと軽い音がして、おたまじゃくしになったトレバーがスネイプ先生の手の中でクネクネしていた。
一部をのぞくハッフルパフ生とレイブンクロー生は拍手を送った。

おもしろくないという顔をしたスネイプ先生はマントのポケットから小瓶を取り出し、2〜3滴トレバーに落とすと、突然元のヒキガエルに戻った。


「ハッフルパフ、5点減点。手伝うなと言ったはずだ、ミス・ディゴリー。授業終了」


魔法薬学の教室を後にして、玄関ホールに続く階段をのぼる途中、マーサは怒りをぶちまけた。


「縮み薬がちゃんとできたのに5点減点って、どう考えてもおかしいわよ。フィービー、これでスネイプがどれだけ根性悪かわかったでしょう?」

「うん、よくわかった」


真顔で答えたフィービーは、スネイプ先生のルーピン先生に対する私怨の深さについて考えていた。

映画では明言されていなかったが、ルーピン先生の正体をばらしたのは十中八九、怨敵のシリウスを取り逃がして悔しい思いをしたスネイプ先生だ。
フィービーとレギュラスが介入してシリウスの無罪はすでに証明されたから、スネイプ先生は腹いせにルーピン先生の正体をばらしたりしないだろうと思っていたが、甘い見通しだったと考えを改めざるを得ない。


夕食前にフィービーはネビルに会って、スネイプ先生から渡されていたトレバーを返した。
大事なペットが薬学教授に捕まっていたと聞いたネビルは半泣きになって、ヒキガエルを抱きしめた。


第5章『選抜とお茶会』

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