あらがうもの
□スリザリンの継承者
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〜レギュラス視点〜
レギュラスはリドルに開心術をかけられる前に、ポッターの芝居の映像やそれに関するフィービーとの会話の記憶に閉心術を施しておいた。
断片的な情報しか得られなかったリドルはレギュラスに磔の呪文をかけ、強引に心に隙を作らせようとした。
磔の呪文に必要とされるのは、相手を徹底的に痛めつけてやろうという強固で残虐な意志。
実体のないリドルの力が中途半端でも、レギュラスは久しぶりに死んだほうがましだと思える苦しみを味わった。
「もうやめて……」
フィービーの涙声がかすかに聞こえた。
拷問を実際に見せつけられて、フィービーの神経が先に音を上げたようだ。
彼女を動揺させまいと、死にものぐるいで声を押し殺していたレギュラスは、舌打ちをしそうになった。
体の痛みは耐えられるけど、フィービーの悲痛な哀願はこれ以上聞きたくない。ふぬけた生活を送っていたせいで、レギュラスの心は随分と弱くなってしまったらしい。
磔の呪文をやめたリドルは、残酷な愉悦を含んだ声でフィービーに話しかけた。
「この男は君を利用したんだ。こいつがどうなろうと、君に関係ないだろう?」
「でも……そ、その呪文を人にかけるのは許されない……」
「フィービーは優しい子なんだね。レギュラスを助けたいなら、君が見た予知夢をすべて僕に話して。さもないと、レギュラスの体を少しずつ切り刻むよ。あるいはフィービーに磔の呪文をかければ、レギュラスが白状するかな」
フィービーの泣き顔が恐怖で歪み、レギュラスがわずかに身じろぎすると、リドルは喉の奥で低く笑った。
闇の帝王の前身はレギュラスがフィービーをかばっていたことを、とっくに見抜いていたらしい。
磔の呪文を続けたのは、嘘をついた罰と、ポッターが来るまでの暇つぶしを兼ねていたようだ。
標的がフィービーに変わる前に、レギュラスはリドルの関心を引くため、分霊箱の情報をちらつかせようとしたとき。
「ようやくハリー・ポッターのご到着か。レギュラスに言っておくが、妙な動きをしたら彼女をバジリスクの餌にするからな」
リドルはレギュラスに釘を刺してから、手前の柱まで引き下がった。
動かすと激痛が走る体に鞭打って立ち上がったレギュラスは、リドルのそばに膝をついて控える姿勢をとった。
ほどなくして部屋の端から物音が響き、2人分の足音が近づいてきた。
ポッターと並んでやってきたのは、何故かセドリックだった。
「ジニー! 死んでいちゃだめだ! お願いだから生きていて!」
「フィービー! 怪我はないかい? ハリー、フィービーとジニーを今すぐここから連れ出そう」
「そうはさせないよ」
リドルが声をかけると、うかつにも杖を脇に投げ捨てたポッターと、担架を魔法で作り出したセドリックがこちらを振り返った。
レギュラスは頭を垂れていたので、ポッターは分霊箱の日記に入ったときに見た人物に注目したようだった。
「トム──トム・リドル? そうはさせないって、どういうこと?」
「僕はこのときをずっと待っていたんだ。ハリー・ポッター。君に会えるチャンスをね。君と話すのをね」
「話しより、ここを出るほうが先だよ。もしもバジリスクが来たら──」
「呼ばれるまでは、来やしない」
リドルの落ち着き払った態度に、違和感をおぼえたセドリックは警戒の目を向けた。
ポッターもなにか変だと思ったらしく、「君はゴーストなの?」と聞いた。
「記憶だよ。日記の中に、50年間残されていた記憶だ」
「トムのそばにいる人も記憶?」
「いいや。こいつはヴォルデモート卿に仕える下僕だ。ハリー、君の名付け親の実弟だよ」
驚くハリーとセドリックに構わず、リドルはウィーズリーの娘はもう助からないと宣告し、日記を通して彼女の命を奪いながら、自分の魂を少しずつ注ぎこんだと打ち明けた。