あらがうもの

□壁に書かれた文字
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「ミスター──あー?」


1289年の国際魔法戦士条約の説明をしていたビンズ先生は、拳を突き上げたアーニーを驚いたように見つめた。
魔法史の授業では先生に質問はおろか、先生の講義を聴いている生徒すら少数だから異例の出来事だったに違いない。


「マクミランです。先生、秘密の部屋について教えていただけませんか」


アーニーの大きな声が教室に響くと、うとうとしていた生徒の大半は急に覚醒した。

ビンズ先生は自分が教えているのは事実に則った魔法史だと答えて、サルジニア魔法小委員会の話に移ろうとした。

アーニーはなおも食い下がり、クラスメイトたちも先生のほうを見て興味を示したので、ビンズ先生は根負けして秘密の部屋について語りはじめた。


大昔のマグルが、魔法使いを迫害していた時代。
もっとも偉大なる4人の魔法使いと魔女はマグルの目から遠く離れた地に、魔法力を示した若者を教育するためにホグワーツ城を築いた。
はじめは和気藹々としていたが、次第に4人の創設者の間に意見の相違が出てきた。


「スリザリンは、ホグワーツには選別された生徒のみが入学を許されるべきだと考えた。魔法教育は純粋に魔法族の家系にのみ与えられるべきだという信念を持ち、マグルの親を持つ生徒は学ぶ資格がないと考えて入学を嫌ったのです」


マグル出身者の多いハッフルパフ生は、一斉にざわめいた。

ジャスティンの顔色は悪いし、マーサは怒りを抑えるように唇を噛んでいる。

ビンズ先生は生徒の反応に構わず、この問題をめぐってスリザリンとグリフィンドールが激しく言い争い、スリザリンが学校を去ったと話した。


「伝説によれば、スリザリンは城に秘密の部屋を密封し、この学校に彼の真の継承者が現れるときまで、何人もその部屋を開けることができないようにしたという。その継承者のみが秘密の部屋の封印を解き、その中の恐怖を解き放ち、それを用いてこの学校から魔法を学ぶにふさわしからざる者を追放するという」


ビンズ先生が語り終えると、痛いほどの沈黙がおりた。

もっと話してほしいと身を乗り出す生徒と、これ以上聞きたくないというようにうつむく生徒が半々だ。


「先生、部屋の中の恐怖というのは具体的にどういうことですか?」


今度はスミスが手を挙げて質問した。


「なんらかの怪物だと信じられており、スリザリンの継承者のみが操ることができるという」

「わかったぞ。ポッターが継承者で秘密の部屋を開けて、怪物を使ってフィルチの猫を襲わせたんだ」


スミスが声高に言うと、恐怖に満ちたささやきが広がった。

フィービーが反論するより先に、ビンズ先生が聞いたことないくらい断固とした口調で言った。


「言っておきましょう。部屋などない、したがって怪物はおらん。以上、おしまい。こんなバカバカしい作り話をお聞かせしたことを悔やんでおる。よろしければ歴史に戻ることにする。実態のある、信ずるに足る、検証できる事実であるところの歴史に!」


ビンズ先生は再び一本調子でノートを読み上げはじめたので、ざわついていた生徒たちは5分としないうちに無気力状態に戻った。

フィービーは自動速記羽根ペンで魔法史のノートをとりつつ、妖精の魔法の宿題を仕上げていたから、夢の世界に旅立たなかったが。

普段は居眠り組に入っているジャスティンが青ざめて、恐怖で目を見開いていたことが気になった。



第7章『ドビーのブラッジャー』

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