僕の家族
□石編 ─第3話─
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小さな店が立ち並ぶ中、純白の大理石の建物がひときわ高くそびえていた。
これが魔法界の銀行のグリンゴッツらしい。
磨き上げられたブロンズ扉の両脇に、真紅と金の制服を着て立っているのは──
「あれは小鬼だよ」
白い階段をのぼりながら、リーマスが小声で教えてくれた。
ハリーより頭一つ小さい小鬼の顔は浅黒く、先の尖ったあごひげを生やしていた。手の指と足の先がやたらと長い。
お辞儀する小鬼のあいだを通って、入口を進む。
次にあらわれた銀の扉には、なにか言葉が刻んであった。
見知らぬ者よ 入るがよい
欲のむくいを 知るがよい
奪うばかりで 稼がぬものは
やがてはつけを 払うべし
おのれのものに あらざる宝
わが床下に 求める者よ
盗人よ 気をつけよ
宝のほかに 潜むものあり
「ここから盗もうなんて、狂気の沙汰だわい」
ハグリッドがそんなことを言ったので、ハリーはどうして狂気の沙汰なのかと聞き返した。
「呪い……呪縛だな。うわさでは、重要な金庫はドラゴンが守っているということだ。それに、道に迷うさ──グリンゴッツはロンドンの地下数百キロのところにある」
銀の扉を小鬼が開けると、壮大な大理石のホールが広がっていた。
100人を超える小鬼が細長いカウンターの向こう側で、帳簿をつけたり真鍮の秤でコインの重さを計ったりしている。
4人は手の空いている小鬼に近づいて、「おはよう」と挨拶をした。
「シリウス・ブラックの金庫から金を取りに来た。あと、ハリー・ポッターの金庫も開けてくれ」
「鍵はお持ちでいらっしゃいますか?」
シリウスはポケットから革袋を出して、小さな黄金の鍵を2つ取り出した。
そのうち1つをハリーに見せて、「これがポッター家の金庫の鍵だ」と言った。
小鬼は慎重に2つの鍵を調べてから、「承知しました」と答えて両手を打った。
「鳴子の準備を」
カウンターにいた小鬼に言いつけられた若い小鬼はすっ飛んでいき、ガチャガチャと金属の音がする革袋を手にすぐ戻ってきて、袋を上司に渡した。
「それと、ダンブルドア教授からの手紙を預かってきとる」
ハグリッドが前に出て、胸を張って重々しく言った。
「713番金庫にある、例の物についてだが」
「了解しました」
小鬼は読み終えた手紙をハグリッドに返した。
案内役として呼ばれたグリップフックという小鬼について、4人はホールの外に続く無数の扉の一つに向かった。
ハリーは713番金庫になにがあるのかと訊ねた。
それは言えん、とハグリッドはいわくありげに答えた。
「極秘だ。ホグワーツの任務でな。おまえさんらにしゃべったりしたら、俺がクビになるだけではすまんよ」
それを聞いたシリウスとリーマスは意味ありげな視線をかわしたが、713番金庫について触れなかった。
松明に照らされた細い石造りの通路に入ると、グリップフックは口笛を吹いた。
小さなトロッコが2台、谷底の下に続いている線路を上がってきた。
ハリー、シリウス、リーマスは小さなトロッコにおさまった。
舵取りをする小鬼が乗ってないのに、3人を乗せたトロッコはクネクネ曲がる迷路を猛スピードで疾走した。
「いま見えた炎ってドラゴンが吐いたのかな?」
「そうだ。俺の金庫の手前にはドラゴンがいるから、間近で見られるぞ」
背後にいるシリウスの愉快そうな言葉を聞いて、ハリーは絶句した。
小さな扉の前でトロッコはやっと止まった。
前のトロッコから降りたグリップフックが扉の鍵を開けた。
モクモクと吹き出した緑色の煙が消えたとき、ハリーはあっと息をのんだ。
中には金貨や銀貨、クヌート銅貨まで山のように高く積まれていた。
「すべてジェームズとリリーがハリーに残したものだ」
シリウスは微笑んで言った。
全部自分のものなんて信じられない。
ダーズリー一家は金庫の存在を知らなかったに違いない、とハリーは確信した。
「この金庫は閉めてくれ。次は713番金庫を頼む」
シリウスはグリップフックのほうに向き直って言った。
ぐったりしたハグリッドは震え声で頼みこんだ。
「もうちーっとゆっくり行けんか?」
中身が引き出されなかった金庫を閉めたグリップフックは、憮然とした声で答えた。
「速度は一定となっております」