僕の家族

□石編 ─第3話─
1ページ/6ページ

小さな店が立ち並ぶ中、純白の大理石の建物がひときわ高くそびえていた。
これが魔法界の銀行のグリンゴッツらしい。

磨き上げられたブロンズ扉の両脇に、真紅と金の制服を着て立っているのは──


「あれは小鬼だよ」


白い階段をのぼりながら、リーマスが小声で教えてくれた。

ハリーより頭一つ小さい小鬼の顔は浅黒く、先の尖ったあごひげを生やしていた。手の指と足の先がやたらと長い。

お辞儀する小鬼のあいだを通って、入口を進む。
次にあらわれた銀の扉には、なにか言葉が刻んであった。


 見知らぬ者よ 入るがよい
 欲のむくいを 知るがよい
 奪うばかりで 稼がぬものは
 やがてはつけを 払うべし
 おのれのものに あらざる宝
 わが床下に 求める者よ
 盗人よ 気をつけよ
 宝のほかに 潜むものあり


「ここから盗もうなんて、狂気の沙汰だわい」


ハグリッドがそんなことを言ったので、ハリーはどうして狂気の沙汰なのかと聞き返した。


「呪い……呪縛だな。うわさでは、重要な金庫はドラゴンが守っているということだ。それに、道に迷うさ──グリンゴッツはロンドンの地下数百キロのところにある」


銀の扉を小鬼が開けると、壮大な大理石のホールが広がっていた。
100人を超える小鬼が細長いカウンターの向こう側で、帳簿をつけたり真鍮の秤でコインの重さを計ったりしている。

4人は手の空いている小鬼に近づいて、「おはよう」と挨拶をした。


「シリウス・ブラックの金庫から金を取りに来た。あと、ハリー・ポッターの金庫も開けてくれ」

「鍵はお持ちでいらっしゃいますか?」


シリウスはポケットから革袋を出して、小さな黄金の鍵を2つ取り出した。
そのうち1つをハリーに見せて、「これがポッター家の金庫の鍵だ」と言った。

小鬼は慎重に2つの鍵を調べてから、「承知しました」と答えて両手を打った。


「鳴子の準備を」


カウンターにいた小鬼に言いつけられた若い小鬼はすっ飛んでいき、ガチャガチャと金属の音がする革袋を手にすぐ戻ってきて、袋を上司に渡した。


「それと、ダンブルドア教授からの手紙を預かってきとる」


ハグリッドが前に出て、胸を張って重々しく言った。


「713番金庫にある、例の物についてだが」

「了解しました」


小鬼は読み終えた手紙をハグリッドに返した。


案内役として呼ばれたグリップフックという小鬼について、4人はホールの外に続く無数の扉の一つに向かった。

ハリーは713番金庫になにがあるのかと訊ねた。

それは言えん、とハグリッドはいわくありげに答えた。


「極秘だ。ホグワーツの任務でな。おまえさんらにしゃべったりしたら、俺がクビになるだけではすまんよ」


それを聞いたシリウスとリーマスは意味ありげな視線をかわしたが、713番金庫について触れなかった。


松明に照らされた細い石造りの通路に入ると、グリップフックは口笛を吹いた。
小さなトロッコが2台、谷底の下に続いている線路を上がってきた。

ハリー、シリウス、リーマスは小さなトロッコにおさまった。
舵取りをする小鬼が乗ってないのに、3人を乗せたトロッコはクネクネ曲がる迷路を猛スピードで疾走した。


「いま見えた炎ってドラゴンが吐いたのかな?」

「そうだ。俺の金庫の手前にはドラゴンがいるから、間近で見られるぞ」


背後にいるシリウスの愉快そうな言葉を聞いて、ハリーは絶句した。


小さな扉の前でトロッコはやっと止まった。

前のトロッコから降りたグリップフックが扉の鍵を開けた。
モクモクと吹き出した緑色の煙が消えたとき、ハリーはあっと息をのんだ。

中には金貨や銀貨、クヌート銅貨まで山のように高く積まれていた。


「すべてジェームズとリリーがハリーに残したものだ」


シリウスは微笑んで言った。

全部自分のものなんて信じられない。
ダーズリー一家は金庫の存在を知らなかったに違いない、とハリーは確信した。


「この金庫は閉めてくれ。次は713番金庫を頼む」


シリウスはグリップフックのほうに向き直って言った。

ぐったりしたハグリッドは震え声で頼みこんだ。


「もうちーっとゆっくり行けんか?」


中身が引き出されなかった金庫を閉めたグリップフックは、憮然とした声で答えた。


「速度は一定となっております」
次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ