お話
□悪魔くんの純情 2
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今日は少し早く会社から帰ることができた夜。俺は久しぶりに何処か焼き鳥かラーメンでも食べて帰ろうかと考えていた。
「レバー食べてぇな…、いや味噌チャーシューもいいもんだなぁ」
一人ブツブツ言いながら夜の街を練り歩いていると、ふとあの日の夜を思い出す。
(そういえばあれ以来ガルに会ってねーな…)
黒い羽と服に包まれた悪魔である。あの日、彼がダンボールに埋もれていたところを見つけて家に連れて行った。
(また来なよって言ったのに…)
あの日から全く見ていない。あれは夢か何かだったのだろうかと錯覚しそうになる。
「まぁ、あの時はなんだか嫌がかれてたしなぁ」
数あるラーメン屋、焼き鳥屋を通り過ぎ、どこにしようか吟味する。その時。
(…ん?)
ぼんやり前を映していた視界の中で、人混みの中に異様な雰囲気を醸し出す人物があった。黒髪、黒い服、長いまつ毛…
「ん⁉︎⁉︎」
見たことのある姿に、まるで磁石に吸い寄せられるように人を掻き分けて近寄ると、それは紛れも無く俺の知ってる人物だった。
「ガルっ‼︎」
「、?……っ!」
手を伸ばして長い腕を掴む。こちらを見て驚いている様子のガル。背中の羽はしまってあるようだった。
「ガル」
「けい、すけ…」
「久しぶり」
ニッと笑って挨拶すると、目の前の悪魔は戸惑ったような顔をした。
「元気にしてたか?」
「…、ぁ、あぁ」
「寂しかったよ、あれからちっとも会いに来てくれないんだもん」
「……」
なんだか「うわ…見つかった…」的な顔をされている気がするがそれは気のせいである。
俺は美しい悪魔を話し相手に、また夜の街を歩きなおす。
「また人間界の調査でもしてたの?」
「…あぁ」
「ふぅん?」
前回の時とは打って変わって、とても落ち着いている。危害を加えないと判断されたのだろうか。
「取り敢えずさ、何か食べようぜ。俺腹ペコペコ」
「何か?」
「そう。やっぱ焼き鳥食べよ、焼き鳥。この先に美味い店あるからさ。」
「……」
店に入り、案内された席に座る。庶民的な空気に、清楚で浮世離れしたような、綺麗な顔した男。
まったく庶民的な店の似合わない奴だ。
俺はメニューを開き、ガルにも見せる。
「好きなもの食べなよ。俺のおごり」
俺はニコッと笑った。
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「いや〜腹いっぱい」
酒も入り腹も満たされ、俺は満足して焼き鳥屋を出る。
ガルもそこそこ食べていた。酒は飲まなかったが。
二人で人混みに混じって歩く。
「そういえば背中の羽ってどこいったの?」
「身体に仕舞ってある」
「へぇ」
仕舞えるんだ、羽って。
そのまま歩く途中で、ガルの空いた手に目がいく。
「……」
そろり、と手を繋いでみる。
「…っ」
その瞬間、真っ赤になった悪魔。
「さわるなっ人前で恥ずかしい奴め!」
繋がれた手を振りほどかれる。悪魔ってそういうの気にするんだ…。
…人混みだから気づかれないと思うんだけどな。
「ガル、今日も家来なよ」
「誰が行くかっ」
誘うと、子供のような口調で否定し、ずんずんと早足で進んでいくガル。俺はそれを、「まあまあ。」前と同じように無理やり引っ張っていった。
前と同じように、アパートへ行くために都会のネオン街からは一本外れた道を歩く。
2人きりになったところで、酒も入ってる俺はスッとしたガルの姿勢や醸し出される独特な雰囲気に釘付けだった。
(ガル…きれい)
(触れたい…)
「……」
特に何も考えず、後ろからガバッと抱きしめる。すると…
「…っ」
「、痛っ!」
ピリッと腕を切られた。そこから血がにじむ。
「あ…すまない…」
だがすぐにハッとして、謝罪の言葉を述べるガル。多分今のは後ろから突然来られ、本能的に攻撃してしまったのだろう。
「いや、」
場の流れで俺は大丈夫だと言いそうになって。
…イイコトを思いついた。
俺は大袈裟なまでに腕を押さえ込む。