お話

□ヴィアンデ家を覗いてみましょう
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貴族・ヴィアンデ家。
それは誰もが一度は耳にしたことがある、お城のように大きな豪邸の呼び名である。誰もが一度は住んでみたいと夢を抱くその豪邸。執事や召し使いも沢山雇われていた。

ヴィアンデ家には一人の息子がいた。輝くような金髪に透き通った青い瞳。長いまつ毛。貴族にふさわしい上品さを漂わせるその姿には、女性だけでなく男性までも、誰もが見とれる美貌を持った息子であった。彼とお付き合いしたい、結婚したいと申し出る女性は常にあとを絶たなかった。



日も暮れて今は夕食の時間。
広い部屋に置かれたテーブルに並べられている料理。どれも一流のシェフによって調理されたものである。
そこに一人、上品に食事をする青年がいた。彼の名は、ルイス・エドワード・ヴィアンテ。ナイフとフォークを使い行儀よく食事をする彼であったが、その表情はどこか雲がかっていた。

「ルイス様、お調子がすぐれませんか?」
「ん?いや、大丈夫だよメリー」

女性のお手伝いさんの一人であるメリアンが声をかけたのをルイは表情を和らげて答えた。
そして周りに気づかれないようにため息をつく。その憂いを帯びた姿さえ美しいのだが、彼の浮かない表情の理由はただひとつだけ。

(トドー、いつ帰ってくるんだろう…)

執事のひとりである東堂(とうどう)という男が、主人からの仕事の任せで帰ってこないのである。

「とうどう」と発音するところをルイは最初に正しく発音しないまま覚えたため、今も彼を「トドー」と呼んでいる。


「ごちそうさまでした」

夕食を終え挨拶をした後に、ルイは空にした皿をきれいに重ねる。席を立ったところで、思い出したようにメリアンが口を開いた。

「そういえばルイス様、いま家を空けている東堂ですが御用が予定よりも早く終わったそうで、今晩にも帰宅をするそうですよ」
「え…メリー、それは本当?」
「ええ。夕食前に彼から連絡がありましたよ」

メリアンの言葉を聞いた途端にルイは、ぱぁっと嬉しそうな顔になる。でもすぐに表情を戻し、ルイは言う。

「トドーの顔はここ最近見れていなかったからね。会えるのが楽しみだよ」

あくまでも執事の中の一人と、というニュアンスを装って喋るルイ。

「教えてくれてありがとうメリー」
「いいえ。
さあルイス様、夕食のあとはお風呂にはいっていらっしゃいな」
「うん、そうするよ」

平然を装い大リビングを出ていくルイだったが、付き合いの長いメリアンには彼がどこかそわそわしているのがすぐに伝わった。

「分かりやすくて可愛い子だわ」


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「ルイス様、こんばんは」
「ご機嫌いかがですか、ルイス様」
「ルイス様、ご入浴の準備が整いました」
「うん、ありがとう」

長く広い廊下を歩き、すれ違う召し使いや執事と挨拶を交わす。ルイは彼らからも親しまれる存在であった。


脱衣場にて来ている衣服を脱ぎ、浴室に入る。もわもわと暖かい湯気に溢れている。浴槽は大理石で作られた、これまた豪華なものであった。
ざぶんと湯船に浸かり、一息つく。

「あたたかい…」

リラックスすると同時に、自然と頭に東堂の顔が浮かぶ。

(今日、帰ってくるんだ…)

ルイはドキドキする胸をごまかすようにパシャン、と湯を顔に当てた。



入浴後、ルイは自室でカモミールティーを楽しみながら本を読んでいた。
しばらくすると、窓の外からコツン、コツン、とコンクリートを歩く足音が聞こえてくる。窓からその音を聞いたルイはハッとし、一度外を確認してから、手早く鏡の前で身なりを整え自分の部屋を飛び出した。
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