お話

□悪魔くんの純情 3
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会社疲れの身体をなんとか動かして今日も俺は家に帰る。

…昨日俺がしたこと。

ガルの初キスをいただいた。
ガルに明日(つまり今日)の夕飯を作って欲しいとお願いした。

昨日、ガルが俺の腕をほんのちょっとだけ爪で切ってしまったのをネタにして、俺は散々ガルに甘えた。
最後にはご飯作って、なんてお願いしてしまった。だっていけると思ったから。

「さーて、悪魔くんはご飯作って待っていてくれてるかな?」

そんなに心から嫌がられてるわけでもなかったみたいだし、もしかしたら来てくれてるかも。…と俺は期待して一人暮らしのアパートのドアの前でふんぞり返り、ガチャンッと勢いよく開けた。

「あれ…?」

その中は真っ暗だった。人気がなく、シーンとしている。奥へ進んでみてもやっぱり真っ暗。

ガルは来ていなかった。

「……」

いつも帰ってくる部屋よりも静かに感じる。
期待して帰って来ただけあって、すこし残念でさみしかった。

(まぁ…、大の悪魔が見下す対象の人間ごときの言うことなんて、聞かないよな)

ぐぅっと腹がなる。空腹だ。

「…夕飯買って来なきゃ」

俺はカバンだけ置いて、そのままコンビニへ向かった。


--------


次の日。

ザーー

その日は雨の降りしきる夜だった。ぴちゃぴちゃと雨粒がアスファルトの上を跳ねる。

「うわっ!」

今日は定時までに仕事が終わらなかったので、すこし残業をした。退社して外に出た俺は驚きの声を上げる。

(こんなに降るとは思わなかった!傘持ってないぞ俺…)

どしゃ降りとまではいかないが、この中を歩いたら十分ずぶ濡れになれるくらいの雨だった。

「しょうがない。走るか…」

術がない俺は心を決め、カバンを雨除けに走り出した。



「ひゃー…びしょ濡れ…」

なんとかアパートの屋根下まで走り終えた。全身水に濡れてしまったから寒い。

「…先に風呂入ろう」

階段を上がり、自分の部屋のドアを開ける。すると…

「…、あれ」

中が明るい。カチャカチャと音が聞こえる。
リビングに誰か人の気配もする。
確かにドアの鍵は掛けてあったのに、何事だろうか。

「……」

リビングの扉に近寄って、そっと開いてみる。

「、あ…」

隙間から見えたのは、美味しそうな匂いと背中から生える黒い羽。

…ガルが料理を準備していた。

俺は静かにリビングに入る。

「ガル、来てくれたの」
「…っ」

声を掛けると、なぜか肩をビクリとさせるガル。

「き、貴様が来いって言ったんだろ…っ」

何を焦っているのか、せかせかと喋る悪魔。
テーブルの上に置かれた皿からほくほくと湯気が立っている。

「美味しそうな肉じゃが」

俺は濡れたジャケットを脱ぎ、ネクタイ取る。

「ちょっと雨に濡れちゃったからさ、先にぱぱっと風呂入ってる来るね」
「…ああ」


俺が風呂に入っている間にガルが帰ってしまう可能性がゼロじゃないと思ったので、俺はハイスピードに風呂を済ませた。


「ふう、さっぱり」

風呂から上がり、タオルで髪を拭きながらリビングに戻る。
幸いなことにガルはまだそこにいた。テーブルの端っこの席にちょこんと座っている。ガルに「ちょこんと」なんて似合わないけれど、そんな感じだ。

テーブルの上には皿がきれいに並べられており、肉じゃが、ほうれん草のおひたし、炊きたての白米、味噌汁とバランス良くおかれている。ビールとグラスまで用意されてあり、気が利いている。

「わぁ〜美味そう。ガルの手作りご飯」
「あ、味見したから味は悪くないと…思う」

俺は行儀良く椅子に座り、手を合わせた。

「いただきま〜す」

ぱくりと肉じゃがを一口。
俺がもぐもぐと口を動かしている間、ガルが覗き込むように、けれど控えめに俺の様子を伺う。
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