たわごと
□FF作家 ヒチョル
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…トゥギは後ろからやって来る足音がキュヒョンのものだと気づいていた。
それでも、振り返らなかった。
近づき何をしようとしているのかを知っていたのに。
少しずつ距離を縮めてくる。
自分より数センチ高いキュヒョンが背中を見つめているのを気配で感じた。
トゥギはキュヒョンが自分をどのように見ているのか、どうしたいのかを知る為に振り返らない。
後戻り出来なくなったとしたら…
その時、どうするのか自分でもわからない。
けれど、確かめたかった。
キュヒョンの気持ちを…
「先生、…が多くないですか?それに繰り返し同じような言葉が出てきてるだけで、一向に僕が近づいてきませんけど?」
「わざとだからいいんだ。俺様は勉強してからやってる。間違いは無い。」
「…そういうもんですかね。焦れったいけど。」
「焦らされたいんだ。皆お前みたいにせっかちじゃねぇの!」
「ふぅん。」
ヒチョルは胡座をかいてパソコンに向き直る。
カタカタとキーボードを操る指は止まることはなく、リズミカルに動いていた。
時折、クフフ。と笑い声を漏らしているが本人は気づいてはいないだろう。
その姿は、ある意味気味悪い。
変な人。とは思いつつ、そんなヒョンを気に入ってるのだから自分も少しおかしいのかもしれないとキュヒョンは考えていた。
「ジョンスヒョン、入っていいですか?」
コン、と小さくノックするが返事がない。
出掛けているのかと、念のため静かにドアを開ける。
厚めのカーテンがひかれているせいで、よく見えないが白い寝具がボゥっと光っているのはわかる。
目を凝らすと少し山が出来ているようだ。
ジョンスは眠っているらしい。
後ろ手でドアを閉めて、枕元に忍び寄る。
よく眠ってる。
ジョンスは体を九の字に曲げて眠っている。
どんなに広い場所で寝ても、苦しそうに見えるのはどうしてだろう。
今も大して狭くないベッドに一人で寝ているのに小さく小さくなってるみたいだ。
「ジョンスヒョン?寝てます?」
耳元でコソッと囁くと眉間に皺が寄る。
指で皺を伸ばしてやると口角が上がり満足したのか、数回空気を噛み締めた後、規則的な寝息が聞こえてくる。
『寝顔は子供のようで、キュヒョンの胸は何故だか切なくなってしまった。
5つも年上のトゥギが頼りなく守らなくてはならない存在に思えた。』
フルフルと頭を振り、再びジョンスの寝顔を見る。
整った顔立ち。綺麗な人だとは思うけど、愛情はなぁ…
チラッと布団から出た立派な脛を見る。
うん、男。
どんなに綺麗でも男だよなー。
試しに、目にかかっている前髪をすいてみる。
何だか切なくなったような気分になる。
毒されてきたかな?
ヒチョルが時々、パソコンを弄りニヤついてるのは知っていた。
やばげな動画かな〜くらいに思い、弱味を握っとくのも悪くないかとコッソリ背後に立つと、画面は文字だらけだった。
『ちょうどいいや、読んでかねぇ?』
ヒチョルは自分のメンバーをモデルに小説をしかも、ある種の人間が好む類いの小説をせっせと書いていたのだった。
変わってる、変わってるとは思っていたけどこれ程とは。
面白い人。