月に祈りを

□悲痛
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「おはようございます」
窓から陽光が降り注ぎ、陽花を照らす。
まだ重い瞼をこじ開けると、部屋の隅にちょこんと竜崎が座っていた。
「よく眠れましたか」
「はい……あの、昨晩は混乱してしまって……。
改めて、言わせて下さい。
本当に、ありがとうございます」
陽花は、こんな言葉では片付けられない程の罪悪感や恩を感じていた。
しかし、この言葉をどう形容したら良いのか分からなかった。
「いえ……」
竜崎は黙々とアイシングたっぷりのドーナツを頬張っている。
食欲の無い陽花は、見ているだけで胃がもたれる様だった。
「それより、学校はどうしますか」
「あ……」
この慌しさの中ですっかり失念していたが、陽花は何日か学校を休み続けている。
学校は事情を把握しているが、流石に連絡が取れなくなったら家に訪問しているかもしれない。
そして、家に誰もいないとなると――
陽花は青ざめ、慌てて携帯を探した。
「携帯ならここです」
竜崎がポケットから携帯を取り出す。
「あ、ありがとうございます」
着信七十二件、未読メール三十三件――
「こ、こんなに……」
陽花は絶句した。
「学校にはワタリが連絡しておきましたが」
「え――?
じゃあ、これは誰から……」
確かに、最初の方は学校からだった。
しかし、ワタリが連絡したと思われる時刻以降は学校からの連絡は途絶えている。
「あ……」
体調などを心配する友人のメールも数件混ざっていたが、殆どはクラスメイトの夜神月からのものだった。
「クラスメイトですか」
「はい」
月を心配させてはいけないと、慌てて誤魔化すメールを打っていると、竜崎がおもむろに口を開く。
「私は、もう学校へは行かない方が良いかと思いますが」
「え……どうしてですか?」
「あんな事があったんです。周りの生徒に情報が伝わるのも時間の問題かと」
「――でも、せめて卒業はしたいんです……」
「……」
竜崎は無言でドーナツを口へ運び続けている。
「陽花さんは、進学希望ですか?」
「あっ、いえ!」

実の所、陽花は東応大学への進学を望んでいた。
しかし、この状況では学費も竜崎に出してもらう事になる上、父の問題などを含め、諦めざるを得ないと嘘を吐いた。
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