月に祈りを
□事実
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「ワタリさんに、竜崎さん――何故、二人共偽名を?」
Lに至っては本名を知らなかったが、どちらにせよ彼等は日本国籍ではない。
ワタリに竜崎という名は、不自然である様に感じた。
「職業柄――でしょうか。あまり詳しくは言えませんが」
竜崎が濁したので、陽花もそれ以上は追求しなかった。
「――陽花さん、貴女の置かれている状況は把握しています」
陽花の肝がさあっと冷えた。
やはり、二人は明彦の事も全て調べた上で、こうして保護してくれたのだ。
ワタリの言動から察してはいたが――やはり知られたくは無かった。
「今後の貴女の面倒を見てくれる様な、親しい親戚もいらっしゃらないみたいですね」
「――」
陽花は頷いた。
明彦は十八年前、両親と縁を切り、二年前に蒸発した母、信子と駆け落ちをしたと聞かされている。
それから一切連絡も取らず、今日まで
過ごしてきたのだ。
犯罪を犯した明彦の子である陽花を、親類が快く面倒見てくれるかどうか――分かり切った事であった。
「それに、多額の借金も抱えていた様ですね」
「え……!?」
それは初耳であった。
「そんな――だって、父は」
「会社は二年目に退社している様です」
陽花は言葉を失った。
目の前が真暗になる、とはまさにこういう事なのだろう。
「貴女はまだ未成年です。
借金を返済するのは、恐らく不可能でしょう」
竜崎が畳み掛ける様にして言葉を吐く。
陽花はもう消えてしまいたかった。
しかし、数秒後――
竜崎の一言が、陽花の運命を変える事になる。