土銀にょた小説
□悪いことは重なることがある
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新八はどうやら自身が熱を上げている寺門通の限定CDを手に入れ、なおかつ同時期にあるライブに行くための金の工面がどうしても必要なようで、いつもの温和な目と違って、かなり危ない充血した目で俺を見下ろしている。
これは手加減なさそうだ・・・。
そうして、毎日ひもじい思いで、秋の実りに与(あずか)れない食欲魔人の神楽は、空腹から本能むき出しのヤバい面で俺を見下ろしていた。
っつーかテメェのイカれた腹が原因だっつーの神楽ちゃん・・・。
「銀さん、悪いですけど、今回は払ってもらいますよ。もう2ヶ月待ってるんですからね。
うちだって家計が苦しいんです。姉上の稼ぎだけに頼るわけにはいかないんですよ!」
お前の趣味は特にな・・・。
「銀ちゃん腹減ったね、子供にご飯食べさせないなんて親失格アル。
秋の実りぃ秋の実りぃ。ああ私酢こんぶの実食べたいアル・・・。」
ああ、こっちはもうオツムがアレだ・・・。
目の下のクマが怖すぎるぜ神楽・・・。
「だいたい銀ちゃんは、節操がなさすぎるアル。お金入ってもすぐにそのままパチンコとか行って、すってんてんになって帰ってきたら意味ねーんだよこの大馬鹿野郎!」
「そうですよ!神楽ちゃんの大食らいが原因してるのもわかりますが」
「わたしは関係ないアル。子供は食べ盛りネ。甲斐性のないこのビチクソやろーがダメダメなだけアル」
「とにかく、銀さんとことん」
『生活力がないんですよ。』
ぐっさり。
「いい大人が自活もできないとか、おいテメェ、世の中なめとんのかゴルァ。」
『甲斐性がないにもほどがあるネ。』
ざっくり。
そして言い渡された判決は。
『何やってでも稼いでこい。』
だった。
新八が手際よく、俺に電話の受話器を突きつけた。
その目は冷たい、氷のように冷たい。
虚無しか見えない冷たい目で俺を見ている。
この段階ですでに算段されていたのだろう。
電話の向こうで待ち構えていたのは、キャバクラで働く新八の姉のお妙だ。
前々から人手が足りないとぼやいていたのを知っている。
その度にヘルプに来ないかと声をかけられていたが、俺はずっとその誘いを断っていた。
しかし、今回はそうは問屋がおろさなそうで。
お妙も新八から状況を聞いているのだろう、人の弱みに付け込んで、半ば脅迫じみた誘いをかけてきた。
「姉御は立派ね。水で生計たててちゃんと自活してるアル。
それに比べてこの能無しのマダオはマジ使えねえアル。
おい、お前、水でしっかり稼いでわたしにちゃんとしたもん食わせるネ」
「銀さん、もう仕事の選り好みなんかできませんよ。
キャバ嬢も立派な仕事です。
ちゃんと稼いで給料払ってくださいね、それじゃ」
そういって、二人に冷たく足蹴にされて家から追い出されてしまった。
おいーっそこ俺の家なんですけどぉ!
頭をかきむしってうがーっと唸ってみても、扉の向こうの子供達は知らぬ存ぜぬで、全く反応なし。
仕方なく俺はとぼとぼとスマイルへと足を運ぶしかなかったんだ。