土銀にょた小説
□たまには休息も必要ですよ
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唐突に万事屋の黒電話がなった。
居間を鳴り響くジリリリリンと昔懐かしのあの音色。
誰もいないのか?
やれやれと俺は受話器を上げる。
『依頼を頼みたいんでさァ』
依頼主は気持ちの入らぬ声で話しかけてくる。
ああ、聞き覚えのある声。
これはあの因縁ばかりある黒服集団、真選組のドS隊長沖田くんの声だ。
俺も負けず劣らず、気だるい声で『はいはい』と生返事で受け答えをすると、
本格的な依頼を受けるべく、指定された日時、場所をメモに書き留めて受話器を置いた。
めんどくせえ仕事引き受けちまった。
でもまあ、依頼料が破格だからしょうがねえか。
頭をボリボリかきながら、それでもなんだか高額な依頼料に不信感を募らせながら、真選組屯所の門をくぐり抜けた。
話が通っているようで、俺の姿を見た見張りの隊士が、さっさと中に入るように促してくる。
そして中で待ち構えていたのは、依頼主の沖田くんと、どこか疲れ切った様子の山崎くんだ。
『じゃあ姐さん頼みましたから』
一言だけそう言うと、沖田くんと山崎くんはさっさ去っていく。
やれやれと溜息をつきながら俺は、持って来た荷物を持ち直して彼らとは別の方向に向かって歩き出した。
ひたひたと廊下を歩き、雑魚寝の隊士たちとは違って、一人で一室を与えられている人物の元へ行く。
土方の部屋の前にたどり着くと、そっと障子を開けて中を覗く。でも中はがらんとしていて人気はない。
俺はそのまま、「おじゃましますよー」と気の抜けた声をかけながら、とりあえず断りを入れて中に入った。
しかしなあ。
依頼が・・・アレなんだよな。
『とにかく土方を3日間仕事をさせずに休みを取らせるように』
って。
沖田くんの話によると、どうも真選組の副長さんは最近体調を崩しているらしい。
俺なんか3日も休みがあるんだったら喜んでゴロゴロしてっけどな。そのあと玉打って、馬やって甘いもん食ってって。
まあ、仕事があってもやってっけど。
・・・ここの奴らと違って、ほっといて仕事がやってくるわけでもないから。
あんまり休みがありすぎるのも困るんだけどな・・・。
さすがは公務員まとまった休み取っても仕事にあぶれないのは強みだよな。ちくしょー。
そんなことを考えながら、この殺風景な部屋のどこかに菓子でもないか物色してみるもけれど。
押入れから出てきたものは菓子のきらびやかなパッケージとは懸け離れた色気のないタバコのカートンと、俺にはわからない何かの書類。それらがばさっと降ってきた。
そしてついでに俺の頭の上に落ちてきたのは黒い皮の入れ物。
財布のような形のものだ。
いや財布だ。
いっぱい入ってる。
(うらやましい)
うん、1枚くらい抜いてもわからない。もう1枚抜いても分からなさそうだな、と。
ばれた時に袖を弄られて見つかっても困るので、なかなか手の出しにくいであろう、胸のサラシの間に挟んでおいた。
そそくさと書類と財布を押入れに戻すと、まあ、ご愛嬌ってことで。
とつぶやいて振り返ったところで呼吸が止まった。
「なにやってんだテメェ」
ピシャッと障子を閉めて不機嫌そうな顔でこちらに向かってくるのはこの部屋の主だ。
やべえっ。見つかったかな・・・。
すこし万事屋に寄付してもらったのばれちゃったかな?
俺の眼の前までやってきた土方は俺を見下ろして言った。