土銀にょた小説

□たまには休息も必要ですよ
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こいつはいくら言っても人の話を聞かない。
みんなが心配してるのに。
頼りにされてるから早く良くなって戻ってきてほしいって思われてるのに。
くたくたになってるから俺がいる間だけでも休んでほしいのに。
目を離すとすぐに仕事に戻っちまう。

「こんなに心配してるのに。早く元気になってほしいって思ってるのに。」

なんだか胸がえぐられそうだ。
第一なんで俺がこいつの事こんな風に思わなきゃいけねぇんだ。
近くにいて情でも移ったか。
でも近くで見てたから、こいつの余裕のない顔とか、気だるそうな息遣いとか、見てられなくて、なんとかしてやりてえって思ったのは事実。
でも普段喧嘩仲間で、物乞いしてるようなやつの意見なんかこいつには全く通じない。

隊士たちの心遣いさえ通じないやつなんだから、俺の心なんかさらさら通じるはずもないんだ。
そう思ったら悔しくなった。
何にもできねえじゃん俺。
心配して損か、俺が動けば動くほどこいつは不機嫌になる。
逆効果だよ。なんで沖田くん俺になんかこんな仕事振ったんだよ。
そんなに休ませたかったら、檻にでも入れて監禁すりゃよかったんだよ。

ぐっと握りしめていた拳から力が抜けていく。
カッと上気した体から熱が抜けていく。
俺の天パも四方八方へ飛び散らかる元気をなくしちまったみてぇだ。
その瞬間今まで感じなかった冷気を感じる。

本降りの中、傘もささずに走り回って全身水浸しになっていた。
濡れた着物が一気に体温を奪っていく。
背筋がぞくりとした。

「・・・わかった」

土方が俺を見て、今までみなぎらせていた殺気を捨てた。
心なしか先ほどまで逆立っていたように見えたV字のツンツンした髪までしゅんと大人しくなったように見えた。

「戻ろう。明日まで・・・だな?明日1日はお前の仕事に付き合ってやる。
・・・だから。
・・・だから泣くな」

そう言われて初めて気がついた。
雨の雫で気がつかなかったのか、いつの間にか俺泣いてたみたいだ。
そんな事にも気がつかないでいた。
あたりを探し回って、そればっかに集中してたから。自分の事が見えなくなってたのか?
人の事言えねえじゃん俺・・・。
急に悪寒がし始める。
カタカタと体が震える。

「早く戻るぞ」

そう言うと土方は俺の肩を掴むとポケットから携帯を取り出しなにやらやりとりを始める。

ひとしきり喋り終えると携帯をポケットに突っ込み俺の腕を引いた。

「帰るぞ。その服・・・早く着替えねえと寒いんだろう?
俺は雨具ぐらい着てるからな、この寒空で雨に濡れたら冷える。」

そう言い捨てると腕を引いてズンズン歩き出した。

屯所に戻ると、ずぶ濡れになった俺はそのまま風呂場へ連れて行かれた。
俺の持って来た荷物を渡されて、早く温まってこいと言われる。
水分を含み切った服は重い。
そして摩擦が大きくなった分帯がはずれにくい。
固く締まった帯を解いて風呂場へ行く頃には体がこれでもかというほどに震えていた。
用意されていた湯に触れても肌が痛くて浸かるにも浸かれず。ちびちびと掛け湯をし、
湯船に浸かれた頃には頭がぼうっとしていた。

「はあ、あったかい。ほっとするよなやっぱ風呂って」
ようやく震えが治まって、俺は土方の部屋に戻っていく。
入れ替わりに土方が風呂場へ行ったようで、部屋には誰もいない。
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