土銀にょた小説

□たまには休息も必要ですよ
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俺は、熱はそう高くはないが、とりあえず氷嚢を土方の頭の下に置いて、持ってきた手ぬぐいを水にくぐらせてギュッと絞ると、それをそっと土方の額に乗せてあくびを一つ。

「ふああ。結局俺の仕事って病人の看護ってわけね。仕方ねえや、こいつ飯何食わすかな。まあ病人はおかゆが一番だな」

そうポンと手を叩くと、真選組の食堂に向かい、台所を借りると、自分の分も合わせて消化のよい食事を作る。

他の隊士たちが慌ただしく動き回ってる中、こんな風に一人のんびりと雑務をこなしているとまるで別次元にいるように感じる。
きっとこれが土方を焦燥させるんだろう。

周りに流されて自己管理もできねえようじゃあ副長勤まりませんぜ土方さんよ。

そうぼそりと呟くと。

「悪かったな。自己管理もできねえやつでよ」

とひがみったらしい返事が返ってくる。

「あれ。起きてたの?」

「今起きた。それより今何時だ」
「仕事は行かせねえよ。もう薄暗くなってる。もうじき日も暮れる。昨日1日眠りこけてたぞ。相当お疲れじゃねえか」
「まあな。仕事立て込んでたから。おまけに頭だけ妙に冴えて寝る時には寝れねぇし。だが、こんな事で休んでられねえんだ。1日も寝てたのか?そんだけ寝れりゃ十分だ」

そう言って起き上がった土方が頭をかかえる。
めまいがするようだ。

「1日休んだくらいでどうにでもなるようなもんじゃねぇだろ?今の状態は。その状態で仕事行っても邪魔なだけだぞ。起きれるんなら、飯くらい食えるよな。今持ってきてやるから待ってろ」

そう言って俺は土方の部屋を後にして、食堂で、作り置いておいた食事を温め直す。
取り皿などを一式盆に乗せ部屋へ戻ると・・・。

ガラン・・・。
ほんのわずかの時間だったのに。抜け出すには十分だったんだろう。
布団は人の膨らみを残したまま放置され。
壁のフックにかけ直しておいた隊服がなくなっている。

「あのバカ」

俺は手にした盆を畳に敷いた布団の横に置くと、屯所内を慌ただしく走り過ぎる隊士の一人を捕まえて、今何が起きているのか事情を聞いた。

数日前から張り込みをしていた攘夷志士の一派に動きがあるとの事で・・・。

悪いことするやつってのは時と場合を選ばないが、たいていは夜を選ぶことが多いのか・・・。

取るものも取らず俺は屯所を後にした。

外は風が吹いている。
もう薄着では風が肌に冷たい季節だ。
そして夜になってしとしとと振り出した雨は本降りになってきた。
俺は土方が行きそうな場所を先ほどの隊士からの情報をもとに片っぱしから当たってみた。

闇に紛れて黒い隊服はなかなか見つからない。
はあはあと息がきれる。

冗談じゃない、あんな体調絶不調のやつをまんまと逃がして、さらに体調悪化させましたとかさ。
俺の面子ねえじゃん。まあ気にしないけどそんなの。

あいつは組のため誰かのためって、自分のこと何も考えてねえんじゃねのか?
疲労が溜まってるってのに、不調で熱があるってのに、休めっていうのに、休みも取らない。
それじゃあ、張り込んで敵に突入かける前に目の前の仕事に忙殺されて過労死だぜ?
もうちっと自分を大事にできないのかね?

そんなことがぐるぐる頭の中を駆け回る。
そして。
路地裏でひっそりと息を殺している土方をようやく見つけた。

背後に気配を感じたのか、殺気をみなぎらせながら土方が俺の方を振り返る。
攘夷志士だと思ったのだろう。俺の姿を見て一瞬どこかほっとした表情をするが、すぐに険しい表情になって「ちっ」と舌打ちをすると、すぐに先ほどから睨みつけている箇所に視線を戻す。

「何しにきやがった。お前のくだらねぇ仕事ごっこなんかにゃかまってられねえんだよ。
こちとら命かけた真剣な仕事してんだ。お前の遊び半分の下らない職業とわけが違う。帰れ。」

そう吐き捨てる土方に真後ろから脳天めがけてグーパンチをかます。
中指ちょいだしの痛いやつ。

「ふざけるな。俺だって真剣に仕事してんだよ。なに?真選組ってのは組織なんじゃなかったのか?組織ってのはたとえ誰か一人が何かで欠けたとしても他がその場を補って成り立つもんなんだろ?今のお前なんか敵の前に出てなにができる?いつもならかわせる剣もかわせず、みんなのお荷物にしかならねえって言ったろ?お前一人いなくたって・・・」

そういう俺に土方が噛みついた。

「うるせぇなっ!俺には俺のやり方があんだよ!男の仕事に口出しすんな。切るぞ!それ以上口出しすん・・・」

「切れよ」

すぱっと言い放ってやると土方はそれ以上なにも言わなくなった。
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