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□「ZEPHEL」
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その時、オスカーはリビングから外を眺めていました。

魔法使いの様子がおかしい事にオスカーは気がついていました。

話し掛けても上の空で、今だって一人になりたいと部屋に篭ってしまったのです


どうしてかは、分かっています。

「……あいつが気付くのを待つべきか…」

その時、ため息をついたオスカーの額に、ゴスッと何かが勢いよくぶつかります。

「っ…!」

ぶつかった何かを掴むとそれは、魔法使いの歯車でした。
少し端の焦げてる『E』の歯車。

「なんだ…一体どうした」

見てみると他の歯車も、オスカーの前で浮いています。

「…あいつがどうかしたのか?」

まるで着いてこいと言うように歯車達がオスカーを先導します。
向かったのはやっぱり魔法使いの所でした。

暗い部屋の中で俯いて涙を流す魔法使い。

「坊や、どうした?」

オスカーはしゃがみ込み、涙に濡れた頬を優しく包み込みます。

「オレ…どうしたら良いかわからねぇ…んだ」
「ん?」
「名前は取り戻してぇ…だけど…いなくなっちまうんだろ?願い事、叶えたらいなくなんだろ…?」

また、一人になってしまうのなんていやだ。

「…」
「オスカーと一緒に居たい……でも、ダメだってんなら、オレ…オレ…は」
「坊や、その先は言っては駄目だ」

そっと、オスカーは魔法使いの唇を長い指で押さえます。
「名前はいらない」と魔法使いが口に出していたら、歯車はまた、彼の元から消えてしまうかもしれません。

「だけど…」
「なぁ、俺は坊やが本当に叶えてほしいと願った事を叶えてやりたいんだ。それは、前にも言った事だ」

こくりと魔法使いが頷くと、オスカーは満足そうに笑います。

柔らかい銀の髪を優しく撫でていると、きゅっと魔法使いがオスカーに抱き着いてきました。
子供のようなその仕草がかわいらしくてオスカーは微笑みます。

「もう、寝るか?」
「…ん」
「わかった」

ゆっくりと抱き上げて寝室へと向かいます。その後を歯車達が月の光に照らされながらついて来ます。
その様子を見て、またオスカーは微笑みます。

いよいよ、明日は、クリスマス。

魔法使いにとって大切な日です。
オスカーは心の中で、「願いはきっと叶えてみせる」と、月に誓ったのでした。

「星でてんなー……」

クリスマスの夜です。
魔法使いとオスカーは流星が1番よく見えると言う、丘にやって来ていました。
澄んだ夜の空気が魔法使いを包みます。
その空気のおかげでしょうか、キラキラと瞬く星が、なんだか今日は一際、輝いて見えます。

まるで、手を伸ばせば星に届きそうだと、魔法使いは思いました。

すっと、手を伸ばします。

「名前、取り戻したら……」

この気持ちをオスカーに伝えなきゃいけない。

そう思っていると、不意に背中が暖かくなり、伸ばしていた手に優しく誰かの指が絡まります。

「オスカー?」
「ああ。待たせたな」

後ろから抱きついて、着ていたコートですっぽりと魔法使いを包み込んでしまいました。

「……なんかハズい」
「温かいんだから、いいだろ?」
「うー…」

魔法使いの耳は寒さと照れくさいので真っ赤になってしまっていました。

「反対側にお前のお仲間がいたんで聞いてきたんだが、流星はだいたい、日付を回る寸前に流れるそうだ」
「…へー」
「名前も聞いたんだが」
「別に知らないし、どーでもいい…」
「お前なぁ…まぁ、いいさ。スープも持ってきたしゆっくりと待つ事にしよう」

こくりと魔法使いが頷くのを確認して、オスカーはいっそう強く魔法使いの身体を抱きしめました。

そのあとしばらく、二人は座り込んで夜空を見上げます。
オスカーの腕に抱きしめられていた魔法使いはその温かさに、うつらうつらし始めました。

「坊や?」
「…んぅ…」
「後少しで時間だ。だから、がんばれ」
「おぅー…」

答える声も眠そうです。

その時、
夜空に一つの星が流れます。

「きたな…」
「マジっ!」

一気に、眠気が覚めた魔法使いは、勢いよく立ち上がります。

二人の見上げる夜空を、二つ、三つ、いいえ、それ以上の星が流れはじめました。

夜空を無数の流星が空を流れていきます。

「…で?どれかわかるのか?」
「わかるかっ…!」

余りの多さにどれが歯車かなんてわかりません。
でも、この沢山の星の中に魔法使いの大切な歯車があるのです。

たまらず魔法使いは両手を伸ばします。

その時です。
キラリと一際大きく輝いた流星がありました。

「あ…!うわっ!」

流星は輝きながらもの凄い速さで魔法使いの元へと降り立ちます。
ぶつかるぎりぎりの所で流星は止まりました。

それは、今まで見つけた、どの歯車よりもいっそう強く輝いています。
魔法使いはそっと手を伸ばして、歯車を両手で包み込みました。

すると、今まで光よりも強い光が魔法使いを包みます。

「…っぁ!」

オスカーは腕を伸ばして、魔法使いの手を取ろうとしますが、光に阻まれてしまいました。


魔法使いは光の中、ゆっくりと瞳を開きます。

目の前には、5つの歯車。
それらは、規則正しく噛み合い、くるくると回転しています。

そして、中心には5つの言葉が並んでいました。

魔法使いは、涙が溢れるのを、感じながら歯車達をそっと抱きしめ、つぶやきました。

大切な、世界に一つだけのその言葉を――。


オスカーの目の前でが段々と弱まっていきます。
目を懲らしていると、光の中から魔法使いが現れます。
急いで駆け寄ると、その身体を抱きしめました。

「大丈夫かっ?」
「おう」

魔法使いは笑って、オスカーに勢いよく抱きつきました。

「オスカー!!オレ、やったぜ!」
「ああ…っよかったな」

嬉しそうに笑い合う魔法使いとオスカー。
しばらくそうしていましたが、すっと魔法使いが離れます。

そして、頬を染めて魔法使いはオスカーに囁きました。

それは、魔法使いの大切な願い。
オスカーは笑顔で魔法使いを強く強く抱きしめます。

いつまでも、抱き合う二人の上で、沢山の星が流がれては消えていきました。



fin
……………
歯車シリーズ第2段です。



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