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□ねがい
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いつまでも私たちの大事なあの子が幸せでありますように…。


降り続いた雨がやんで、久しぶりに太陽が顔を出した日の午後。
ゼフェルは公園の中を一人でとことこ歩いていた。
オスカーとアリオスはなぜか急がしそうで、仕方なくランディの所に行ったのだがジュリアスと一緒に出かけてしまったらしい。

「ぜふぇる、ひとりでつまんなぁーい」

落ちていた小石をころりと転がしながら歩く。
ころり。
また、蹴る。
ころころり。
また蹴ってみた。
ころころころ。

「にゃっ!」

転がっていく小石が面白くてゼフェルは、石蹴りに夢中になる。

「えいっ!」

思いっきり蹴った。
すると、小石は今まで以上に転がりゼフェルから離れたところでとまった。
追いかけていくと、目の前にふわりとした何かが。

「う?」

顔を上げたゼフェルの前には白いワンピースに銀色の髪。
そして、紅い瞳でやさしく微笑む女性が立っていた。

「こんにちは」

にこりと微笑みながら挨拶をされ、ゼフェルは少しだけ迷って、ぺこりとお辞儀をした。

「こんちは…」

目線を合わせるように座り込んできたその人の顔をゼフェルはまじまじと見つめる。
そんなゼフェルの視線に気づいて目の前の人は首を微笑みながら首をかしげる。

「ぜふぇると…おんなじ!」
「ん?」
「おめめとかみのけと…あとおみみ!」

長い銀髪の髪はゼフェルと同じように太陽の光できらきらと光っているし、紅い瞳はまったく同じ色。
そして、彼女の銀髪の間からは黒い猫の耳が。

「おんなじね」

そういってオスカーとは違うやわらかい手がゼフェルの頭をなでる。
ゼフェルはなんだかうれしくなってきてにっこりと笑った。

「おんなじねっ!」

二人でにこにこと笑いあう。
そのあとは、近くにあったベンチへと移動して座った。

「どうして、こんなところで一人でいるの?父さんたちは?」
「あのね、ぜふぇるね、おすかーとありおすとあそびたかっのにねあそんでくれなかったの」
「どうして?」
「ありおすもおすかーもいそがしーんだって」
「そうなの…残念ね」
「うん。でもね!ちょっとだけ!おうちにかえったらあそんでもらうの!」
「たくさん遊んでもらえるといいね」
「うんっ!たぁくさんあそぶの!きょうね『とくべつなひ』なんだっていってたんだよ」
「特別な日?」
「うんっ!でもどんなひかぜふぇるわからないの…」

しゅんとしたりうれしそうにしたり、くるくると表情の変わるゼフェルをいとおしげに見つめる。

「ゼフェル、お父さんたち大好き?」
「うん!だーぁいすきっ!おすかーもありおすもやさしくて、つよくてだいすきっ」
「そう。だぁいすきなのね」
「ぜふぇるのだいじなだいじなかぞくだもん!ぜふぇるだぁーいすきっ」

にっこりと笑って彼女を見れば、次の瞬間ぎゅっと強く、それでもやさしい腕に抱きしめられる。

「おねーさん?」

びっくりはしたけれど、なぜか嫌な感じはしなかった。
すごく懐かしくて、あったかくて、やさしい感じがした。

「ごめんね…」

ごめんね。
いっしょにいてあげられなくて。守ってあげられなくて。
あなたの成長を見守れなくくて。

「おねーさん、どうしてないてるの?」
「…」
「おねーさんがないちゃうと……ぜふぇるまでかなしくなっちゃうの…」

ゼフェルの紅い瞳がゆらゆらと涙で揺れ始めて、ついには柔らかい頬に流れてしまう。

「ひうっ…にゃぅ…」
「あぁ…ごめんね。ごめんね…。泣いちゃだめね…。あなたの大切な日なんだもの…」

やさしくやさしく抱きしめられてほうっと息をつく。
抱きしめてくれる腕はオスカーのように強くはないけれど、それでもオスカーと同じようにやさしくて、安心した。
やわらかくて、いい匂いもした。

「おねーさん、もうないてない?かなしくない?」
「うん。泣いてない」
「ずっと、わらっててね」
「うん。笑うわ。ずっと笑ってるわね。だから、ゼフェルもずうっっと笑っていて」

どうか、私の、私たちの分まで。

「うん!」

やさしい風がそよそよとふたりの銀色の髪を揺らす。

「ねぇ、ゼフェルはどんなお友達がいるの?」
「おともだち?えっとね、らんでぃっていうんだよ!」

ゼフェルとその人はたくさん話をした。
ゼフェルの大好きなもの、嫌いなもの、大事なもの。
一所懸命に話すゼフェルのことを、ただただ、その人は、やさしげにそして、いとおしげに見つめていた。

時は夕刻。
話し疲れたゼフェルは、彼女に抱えられ気持ちよさそうに眠っていた。
やさしくやさしく髪をなでてもらいながら、気持ちよさそうに。

「ゼフェル?」

遠くから人の声がする。

「もう、お別れなのね…ゼフェル」

だんだんと足音が近づいてくる。
それは、オスカーとアリオス。

「…ゼフェル…と、あなたは…?」
「お話をしていたんです。たくさんたくさんお話してくれたから、きっと疲れたんだと思います」

よく眠っているゼフェルを抱えて微笑むその人にオスカーは見覚えがあった。
「…!…あなたは…ゼフェルの」

そこまで言ってオスカーは言葉を切る。それ以上は言ってはいけない気がした。

「…今はあなた方がこの子の家族です」

腕に抱えていたゼフェルの頬にひとつキスをしてから、オスカーへと手渡す。
大事にゼフェルを腕に抱くオスカーを見て寂しげに微笑む。

「お願いです。大事に大事に育ててあげてください。ゼフェルをお願いします…。私たちが見せることができなかったもの、教えてあげることができなかったものを、たくさんたくさん、この子に与えてあげてください」

大事な大事な私たちの息子に。

「きっとあなたたちの見せることのできなかったものを俺たちが見せていきます。それに俺たちはゼフェルを…愛しています」

だから、どうか俺たちを信じてください。

「ええ、知っています。どうか、ゼフェルをお願いします」

その人はゆっくりと頭を下げた。
ひときわ強い風が4人の間を駆け抜ける。
あまりの強さにオスカーは瞳を細める。

ふわりと消えていくその人に後ろに、同じように微笑む誰かの影を見た気がした。

『消えた…か』
「ああ。きっと心配だったんだろうな。俺たちもまだまだだな」
『用意にかまけて、ゼフェルが家から抜け出したことをあとになって気づいてしまうあたりな』
「お前もだろう」
『…ふん』

二人の話し声で腕の中の身体が震え、ゼフェルが目を覚ました。

「あれ…?おすかーとありおす…?」
「おはよう。ゼフェル」

まだ少し眠そうにオスカーの首にしがみついてくる。

「おすかー。ぜふぇるとおんなじのやさしいおねーさんにあったんだよ」
「…そうか。俺も会いたかったな」
「すっごいやさしくて、きれいだったの」
「ああ」
「ぜふぇる、またあいたいなぁ…」
「そうだな…。よし、ゼフェル、帰ろう。今日はゼフェルの「お誕生日」だから」
「おたんじょうび?」
「そう。ゼフェルが生まれてきてくれてありがとうって感謝するための日なんだよ」
「ねぇ…おすかー」
「どうした?」
「オスカーはぜふぇるがいっしょにいてうれしい?」
「もちろん!」
「ありおすも?」

こくりとアリオスがうなずく。
ゼフェルはまたオスカーに強く抱きついた。


これからも、その先もずっとゼフェルが幸せでいられるように自分は何に変えても、ゼフェルを愛して、愛して、守り抜く。
そして、いつかゼフェルの故郷に連れて行ってあげよう。

それが、きっと、あの二人の願いだから。


いつまでも俺たちの愛しいこの子が幸せでありますように…。




………………
オリキャラですが、ゼフェルのお母さん。
一度は書きたいと思っていたので…。


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