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□君を待っていた
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「俺と付き合わないか?」
 
目の前の男が笑う。

「……」
「いつも、いつもあいつを待つのは疲れないか?」

それでも、待つと決めたのは自分だ。
ゼフェルは唇を噛む。

「…すまない。ゼフェルを困らせるつもりじゃ無いんだ」
「俺は待つって決めたんだ。あいつがどっか行って、それでも帰ってくるの…」

「ゼフェル…」

俯いてしまったゼフェルをオスカーは堪らず抱き寄せる。

「オスカー…?」
「これからも…待つんだな?あいつを」

こくりと頷く。

「分かった。でも、俺の気持ちは忘れないでくれよ」
片目をつぶって笑うオスカーにゼフェルは苦笑する。

「俺、オスカーの事はスキだ。でもよ…好きにはなれねぇんだ…」

俺の中はあいつでいっぱいなんだから。

泣きそうな顔で笑った。


ゼフェルが去った後、オスカーは一人、空を見上げる。
冬の空は澄み切った青空。
携帯を取り出し、のボタンを押す。
たっぷり20コール以上ならした後、やっと不機嫌そうに電話に出て来た相手に
、一言だけ告げる。

電話の向こうの気配が変わるのが分かった。

相手の返事も待たないうちにぷつりと電話を切る。

少々お節介かとも思ったがこれ以上ゼフェルの辛そうな笑顔は見たくない。

「後はあいつがどうするかだな」
 
そしてまた、空を見上げた。


家に帰り着いたゼフェルはエアコンも着けずに座り込んだ。
コートも脱いではいない。
元々は一緒に住んでいる部屋に今は一人。

アリオスが出ていってから二ヶ月経った。
付き合った頃から、アリオスはふらりと居なくなる事があった。
仕事だったり、そうではなかったり。

あいつは一人が好きだから。

そんな時、ゼフェルはただ待っているだけ。

自分から電話をかける事なんてしなかった。

でも今日は。

近くにあった携帯を開き、短縮に入っている番号を呼び出した。
短縮に入っているのは立った一人。

アリオス。

ただ一回発信ボタンを押すだけ。
それだけで繋がる。
繋がる筈だ。


ゼフェルは迷って結局止めた。
声が聴きたいなら帰って来てからでいい。

ことりと携帯を床に置く。
そしてそのまま床へと横たわる。
顔に触れる床の冷たさにふるりと震えたが、それでも、動こうとはしない。

「さみー…なぁ」

だんだんと身体が冷えてくる。
ゼフェルは動く事なく床に横たわったまま、瞳を閉じた。




ブルルっという音と微かな振動がしてゼフェルは瞳を開く。
帰って来た時には明るかった部屋の中が暗くなっていた。

「…あ?夜?」

どうやら眠っていたらしい。
一段と冷え込んでいる部屋の空気に身体が震える。

しばらく、ぼーっとしていたゼフェルは床で震える携帯にようやく気がついた。
手に取って確認すると、紅い瞳が見開かれる。

アリオス。

震える指で通信ボタンを押した。

「ア」
「今、何処だ!」
「…っ?」
「何処にいるのか聞いているんだ」
「家…」
「さっきからずっと掛けていたんだぞ」

久し振りのアリオスの声はとても、怒っていた。
どうして、怒られなければいけないんだろう…?

「とにかく、家だな?」
「…おう」
「分かった」

ぷつり。

「おい!ちょっ…アリオス!!」

呼び掛けても聞こえるのはプープーという音だけ。

「なんだよ…声、聞けたの久し振りだったのによ…」

一体何をしに掛けて来たのだろう。

動けずにいると、ガンガンッと乱暴にドアを叩く音がした。

「へっ?は?何?」

とりあえず出ないといけない。
ゼフェルは急いで、ドアまで走っていくと、開けた――。


扉を開いた途端、寒い空気と共に現れたアリオスに抱き寄せられた。

二人して玄関に倒れ込む。

「っ…いてぇよ」
「……」
「…アリオス?」
「……」
「なぁ…アリオス、どうしたんだよ?」
「……寒い…」

いや、だから。

「中、入ろうぜ、な」

あ、中も寒いか…。

「アリオス…なぁ」

小さく銀髪を引っ張るが離してくれない。
それどころか更に強く抱きしめられる。

「どこかに行くのか?」

肩にくすぐったい髪の感触。
ゼフェルも堪らず抱き着く腕を強めた。

「…帰って来てそんまま寝てた」
「オスカーの所に行ってたんじゃないのか?」
「行ってたけど…」
「告白されたのか……?」

さっきの電話での怒気は何処へいったのか。

「されたけど…アリオスが…いるから」

ゼフェルがそこまで言うと、アリオスが顔を上げる。
久し振りに見た金と緑の色。

「な…なんだよ?」

ゼフェルに視線を合わせてアリオスが笑うと、次の瞬間、身体がふわりと浮き上がる。
いつの間にか靴を脱いでいたアリオスはゼフェルを抱えあげると部屋の中へと入っていった。

いきなりの事にびっくりしているゼフェル。

「なんでこんなに寒いんだ」

エアコンを点けて、ソファーの上にゼフェルを降ろす。
その横でコートを脱ぎ捨てたアリオスはゼフェルへと覆いかぶさる。

展開が余りに早くてゼフェルが口を挟む隙がない。
やっと何かを言えるようになったのは、アリオスがゼフェルの着ていたコートを
脱がして、シャツをめくり始めた時だった。

「展開はえーよ!!」
「黙ってろ。取りあえず先にお前を補充してから話してやるよ」

ニヤリと笑ってアリオスが口づけた。



「……疲れた…腰がいてぇ」

恨めしそうに床に座るアリオスを見る。
散々抱かれたゼフェルの身体はソファーに沈み込んでいた。

「悪かった。まぁ、お前だって歯止めが利かなかったんだからしょうがねぇな」

「久し振りの相手に向かってあそこまでやるかふつー!」

おかげで意識を飛ばしてしまったのだ。
気がつけばソファーに寝かされ毛布をかけられていた。

「俺だって久し振りだ」

隠れていないゼフェルの肩に何度も小さくキスをするアリオス。

「なぁ、なんで」
「何がだ?」
「オスカーに…告られた事、知ってたんだ?」
「それはいいだろ」

ごまかすようにキスをしようとするアリオスの顔をゼフェルは両手で押さえた。

「アリオス」
「…あいつに聞いたんだよ。」
「オスカーのやろーか?」
「ああ。お前に告白したってな」
「あの馬鹿!」
「正直、お前は俺に愛想を尽かしてると思ってた。だから、焦ったんだぜ…」

強く抱きしめられて、ゼフェルは鼻の奥がツンとなるのを感じた。

「俺はおめーが…おめーじゃないとダメなんだよ。だからどっか行っても、待つって決めてんだ」

だから、安心してどっかにいきやがれ。

「…今度から、行く時はちゃんと言ってから行く」
「おう」
「仕事じゃないときはお前も連れていく」
「…お、おう?」

唐突だな、おい。

「もう、一人で置いて行かない」
「…おー」

ぎゅっと更に強く抱きしめられ、ゼフェルは泣きそうになる。

「なぁ、アリオス。忘れてた」
「なんだ?」

緑と金の瞳を覗き込み笑った。

「誕生日おめでとうな」

驚きつつ、嬉しそうなアリオスと照れるゼフェル。

優しいキスを繰り返す二人の横でちらちらと白い雪が降る。

それは、今年の初雪だった。



FIN
…………
アリオスとゼフェルは銀色コンビで綺麗な二人だと思います。






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