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□ある日、学校にて
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「この時代には絶対的君主政権がすべての実権を握っていた。このことから…」

今は授業中。
教科書を順に生徒が読むのを聞き、時々解説を交えながら教室を歩く。
自分で言うのもなんだが、水曜日の2時間目は機嫌がいい。
理由は簡単だ。
なぜなら、この日の最初の授業はゼフェルのクラス。
ちらりと、窓際の一番後ろの席を見る。
そこには、頬杖をついて、校庭を見ているゼフェルがいた。

「次、マルセル」
「はい」

ゼフェルに近づいて、こつりと教科書の角で銀髪の頭を小突く。

「って」
「ちゃんと聞いてなさい」
「…へーい」

むすりとしながらも教科書へと視線を移したゼフェル。
授業中は生徒と先生だからな。
それ以外は…生徒と先生の関係じゃなくてもいいかなと思ってはいるんだが。

「教科書にあるように沢山の文献が生まれた時期でもある。ちゃんと、右上の表を見ておけよ?この部分は、テストに出すからな」

そういえば必ず聞こえてくる生徒の叫びに、軽く笑う。

「最後の10分はまとめる時間にするから、黒板とってないヤツはさっさと写せ。俺は出すと言ったら必ず出すからな。それ以外の者は質問があるなら受け付けるぞ」
「どれが出ますか!」
「それを言ったら意味が無いだろう。この表から出る、とだけは言っておく。そうだな、文章に出てきた著者名と題名はきちんと見ておけ。ちなみにどこにあるのかは自分で探すように。今日はここまで」

次は移動教室で教科書片手に生徒たちが教室を出て行く。
俺はそれとは正反対の方向へと歩きだすと、後ろからシャツを引っ張られた。

「ゼフェル」

予想通りそれはゼフェル。

「先生、さっきの地味に痛かったんだけど」
「ちゃんと、授業を聞いてないからだ」
「ちゃんと聞いてたつーの」
「じゃあ、態度が悪い」
「ちぇっ。あ、先生、昼どうする?」

俺とゼフェルは時間が合う限り、一緒に昼をとっている。
みんな、ゼフェルが俺に一番懐いていることを知っているからか、あまり何も言われない。

「そうだな…資料室にいるよ」
「わーった!」

一緒に昼食を取れる。
それだけで、なんとなくうれしい。

「ゼフェル、次は移動教室だろう?いいのか、荷物」
「ん?その辺は大丈夫。ぬかりはねーの!じゃーなー!」

ばたばたと走っていく。
まったくろうかは走るなといっているのに。
その後ろ姿がなくなるまで見送って、俺も職員室へと戻っていった。




「ゼフェル!人に荷物持って行かせといて自分はどこに行ってたんだよ」
「うるせーよ、ランディ野郎。ちょっと、ヤボ用だよ、ヤボ用」
「はい。ゼフェル、教科書」
「あ、サンキュー」

科学室にチャイムとともにすべり込んだ俺を待っていたのは、教科書を頼んだマルセルとランディ。
ランディは生徒会長で口うるさい。マルセルは一番おとなしいのに鋭い。
もともとこいつらとは口を利く程仲もよくなかった。
小学校からのエスカレーター式のこの高校では外部の人間は珍しい。
俺はその外部組だ。
1年の頃にクラスに馴染めなくて、そのまま一匹狼。
それでも進級してつまらない学校生活を送っていたら、いつのまにか先生が世話やいてくれて。
ランデイ野郎が先生に懐いてたから、俺とも話す機会が増えて、その影響かランディのトモダチだったマルセルも一緒に、いつの間にかにトモダチってヤツになっていた。

「また、オスカー先生とお話してたの?」
「へ?」

マルセルから先生の名前が出て、どきりとする。

「ゼフェル、いつも水曜日の2時間目と3時間目の休み時間はオスカー先生追いかけてお話してるでしょ?」
「そうだよな。いつも何話してるんだ?俺たちに荷物頼んでさ」
「ふつーの話だよ」

昼休みの約束とか、一緒に帰るとか…。
本当に普通の話だからなんとも言いようが無い。
そうこうしているうちに、授業が始まった。

基本的に理数系は苦手じゃないから、科学の授業は嫌いじゃない。
どうやら、今日は実験をするらしい。
ざわざわと準備で騒がしい教室で俺も、シャーレやら、ピンセットなんかを用意していた。
そんな中、ふと見えた中庭。

「あ…」

先生がいた。
なにしてんだ、と思っていると隣に見覚えのある金髪。

「なんだ、ジュリアスと一緒かよ…」

俺ははっきり言ってジュリアスが苦手だった。
口うるさいし、説教がうるさいし、注意ばっかりしてくるし…って全部一緒か。
それに、先生の上司で先生が尊敬している教師ってヤツがジュリアスだからだ。
先生は…オスカーは俺のだってーの。

「何だ、どうかしたのか?」
「……別に」

ランディが俺を覗き込んでくる。

「ほら、実験始めるぞ」
「おう」

なんだか、気分わりぃ。
水曜日は…気分いいはずなんだけどな。

「ちぇっ…」

その気分のまま、俺は実験も、その次の授業も受けてしまったのだった。



「ゼフェル?どうかしたのか?えらく不機嫌だな」
「別に」

別にと言っていても眉間にしわがよっている。
本当にわかりやすい奴だ。

「ほら、そんな顔してたらせっかくの昼食がつまらないだろう?」
「…だから、怒ってねーの!」

それは、怒ってるだろう?

「俺が何かしたのか?」
「べーつーに」

ぱくりと焼きそばパンにかぶりつくゼフェル。

「先生今日も、売店の弁当かよ」

俺に手元には売店の幕の内弁当。

「仕方無いだろう、一人暮らしなんだから。お前だって売店の焼きそばパンだろ?しかし…いつも弁当なのに珍しいな」

一人暮らしの昼食といったら教師専用の食堂か、売店の弁当かはたまたコンビニにお世話になるか、だ。

「今日は母さん、朝からバタバタだったからべんとー作れなかったんだよ」
「どうかしたのか?」
「親父の単身赴任先に押しかけ女房するって言って、今日出発した。んで、一週間留守するって、さっきメール着てた」
「そ…そうか…」
「親父んとこ行くの決めたの3日前だしよぉ。それもいきなり!一週間、わびしい生活だぜ。ショナも寮だから家にいないし」

焼きそばパンをたいらげたゼフェルはあーあーと、机に突っ伏す。

「なら、俺の家に一週間泊るか?」

半分冗談、半分本気で問いかけてみた。

「それは無理。親が家にいないときは必ず家にいろって言われてっから」
「そうなのか?」
「家に親がいる時は遅くなって帰ってきても誰かいるから安心だけど、誰もいないときはお前が家を守れって親父に言われてんの。ま、様は誰もいないときくらいぶらついてないで家にいろってことな」
「なるほど。それなら仕方ないな」
「でも、家にいろとは言われてっケド、誰かを家に呼ぶなとは言われてねーんだケド?」

突っ伏していた顔を上げて、猫のように目を細めて笑う。

「毎日は無理だが、土日ならいいぞ?」
「さっすが先生。話が早いじゃん」
「それに、一人でさびしいゼフェルにメールと電話をしてやろう」
「なんで、そんなに偉そうなんだよ。あんた」

ふわふわの銀髪を優しく撫でてやる。
そして、小さく髪にキス。

「せんせ…」

今度はゼフェルの唇に。
ちょうど、その時。
俺たちを邪魔するかのように予鈴がなった。

「げ」
「タイムリミット」
「げぇぇぇ。次英語かよー…」
「学生の本分は勉強だ。ほら、行ってこい」
「へーへー…。先生は?」
「俺は午後はフリーだ。テストの問題でも作るさ」
「…簡単なの、オネガイシマス」

そういうが早いか、急いでごみを片付けて、教室を出て行く。
ゼフェルのクラスの英語担当はジュリアス先生。
少し前にサボって、大目玉をくらったゼフェルとしては、もう同じ目にはあいたくないらしい。

たぶん、間に合わないと思うが…。


やっぱり遅れて小言から始まったジュリアスの英語と、無性に眠くなるルヴァの古典と、めんどくさいHRと、めんどくさくてサボった掃除の後の放課後。
ランディからの掃除をサボったことに関する文句のメールもさくっと無視して、帰っている所だ。
家までの帰り道には、急な坂があって、そこの一番上から見る景色が、俺はすきだった。
今はちょうど、坂の真ん中くらい。

「家、なんか食うものあったっけ…」

今日の夕飯は何にしようか考える。
まったく、お袋がいないと大変だ。
先生が一緒なら、ラーメンでもおごってもらうんだけどな。

先生とは、昼休みの後は会っていない。
会議が入っていると、昨日言っていたからだ。
また、ポケットの携帯が震える。
ランディからかと思ったが違った。

差出人名は「オスカー」

自分でも恥ずかしいくらいにうれしくなっているのがわかる。
でも、メールを開いた俺はがっくりきた。

『いい子に、寄り道しないで帰れよ』

「あんにゃろう…」

『帰ってる途中だってーの!』

いささか怒り気味にメールを返せば、

『夜に電話するから、それまでおとなしく待っていろ』

おとなしくって何だよ。おとなしくって。
俺がいつもうるせーみたいじゃねぇか。
また文句のひとつでも送ってやろうと、キーを打つ。

「…なんかおもしろくねぇな」

文句を言うだけじゃ物足りなくて。
打っていた文章を削除して、いくつかの記号を打ち込んで、ついでに夕日の写メも撮って送ってやる。

どんな顔してメールを見てるのか…。

気分がよくなった俺は、ランディへメールの返信をしてやろうかなぁーと思いつつ、家へと帰ったのだった。





おまけ。
「なぁ…ルヴァ…」
「はい?」
「ゼフェルからのメールなんだが…これはどういう意味だと思う?」
「…さぁ…。また何か怒らせたんですか?」
「いや…。別にそこまでは」

『(・言・)』

「それにしても、面白い顔文字ですねぇ」
「……とりあえず意味は夜にでも聞くか」
「何か言いましたか?」
「いや、別に…」
「夜更かしさせては駄目ですよー」
「聞こえてるんじゃないか…」

fin
…………………………
6500ヒット、カイリさんからのリクエストで「先生生徒で学校での一日」です。
高校時代の授業中は毎日眠気との戦いだった気がしますが…。
もしくは、ネタづくりのための、貴重な時間か…。←
オスカー先生は授業中とそれ以外のけじめのつけ方はうまいと思います。
ゼフェルはオスカーの授業にはちゃんとでますが、内容はきちんと聞いてないと思います←だって、ゼフェルだから。
か…顔文字は…私のお気に入りを…ははは。
カイリさん、リクエストありがとうございました!



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