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□プラチナ
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ゼフェルは、激しく後悔していた。

どうしてこうなってしまったのか。

その原因は自分。それがわかるだけに、さらに後悔はどんどん積みあがる。

ちろりと、隣の男を見る。
その視線に気がついたのか、にっこりと笑みを返された。

「どうかしたのか?銀の髪のお嬢ちゃん」

ああ、もう!げんなりする。

お嬢ちゃん―――。

そう。

今の自分はゼフェルであって、ゼフェルじゃない。

それは、ほんの数時間後にさかのぼる。


鼻歌が聞こえる。
それも、ものすごく上機嫌な。

「さぁてと、着せるモノは決まったし、髪はウィッグをつければ問題ないし…メイクはっと…」
「おい」
「もう!これからの事考えると腕がなっちゃうっ☆」
「オリヴィエ!!」
「んもう、なによ。うるさいわよ!あんたの変身プラン考えてあげてんよ」
「んなもん、考えなくていい!!」

ゼフェルは叫ぶ。
しかし。

「なぁーにを、言ってんのかしらねぇ…。この悪ガキ!アンタが私の執務室をぐっちゃぐちゃにしたんでしょ!…ああ、届いたばっかりだったのにぃ。あの布…」
「う…」

試運転で飛ばしていた、メカチュピが困ったことに暴走し、オリヴィエの執務室に突っ込んだ。
そして、さらに困ったことにそこでは、オリヴィエが遠い惑星からわざわざ取り寄せた、一級品の布を広げていた所だったのだ。
かくして布はボロボロ。オリヴィエは怒り心頭。
謝り倒して何とか、条件付で許してもらえることになったのだが。

その条件というのがまた問題だった。

「女装とかありえねー…」

思わず机に突っ伏す。
逃げればよかったのが、実は逃げれないわけが合った。

「逃げたらあんた…このメカ…握りつぶすわよ…」

それこそ、地を這うような、怒りに満ちた声にすごまれれば、さしものゼフェルも逆らえなかった。
大切に造ってきたメカチュピだけに、そんな事は絶対嫌だ。

「………………はぁ…」
「ほら、ゼフェル、こっち向く!」
「へーへー」

かくして、オリヴェエのお楽しみは、一人のオモチャ(元はといえば自業自得)の犠牲により始まったのだった。


「うふふふ……!!できたっ。久しぶりに傑作だわ」
(そりゃ、傑作なほど笑えるって事だろうが…)

一時間にわたり、顔をいじられ、髪をいじられ、服を着せられたゼフェルは疲労困憊。

「ほら、見てみなさいよ」

腕をひっぱられて、姿見へと連れて行かれる。その間も、ゼフェルは下を向いたまま。

「ほら」

オリヴィエはゼフェルの顔へと手を回して、ぐいっと顔を上に向けさせた。
おそるおそる瞳を開いたゼフェル。
その瞳は、見る見るうちに開かれていく。

目の前に少女がいる。
キラキラと光るプラチナの髪をアップにして、白いベアトップワンピースにデニムのボレロを着せられて、驚いたように瞳を見開いた少女。
おそらく顔も相当いじられたので、メイクはしてあるのだろう。
ゼフェルにはただ気持ち悪いだけだが。
それでも、そこにいるのはいつもの生意気な顔の少年ではなく、少し気が強そうな少女。

「…え…?えええええっ?これ…だ…誰だよ?」
「なに言ってんのよ。これはあんた。ゼフェルでしょ?」
「違う…こんなの俺じゃ…ねぇ」
「信じられないかもしれないけど、これはアンタなの」

ぽんと後ろから肩に手を添えられてぎろりと睨み付ける。

「ほらほら、怒らない怒らない」
「おこってねぇーーーーよっ」
「でも、本当にあんたかわいいわぁ。さすが私よねぇ!」

ああ、もういいから解放してくれ…。

本当に疲れてきたゼフェルは、ぼすっとたソファに座った。

「ほらほら、足広げない!」
「別にいいだろうがー」
「もう、せっかくかわいくしたのに」

ゼフェルがもう一回叫ぼうとした時だ、カチャリとドアが開いた。

「っ!」

あわてたゼフェルは、溜まらずオリヴィエの後ろに隠れた。

「極楽鳥、俺だ」
「あらら…オスカー」
「っっっ!」

(うそだろ…なんで……このタイミングで…!!)

よりによって現れたのは、オスカーで。
今、ゼフェルが一番会いたくない相手だった。

「どうかしたのか?…取り込み中か?」

オリヴィエの背後で隠れていたゼフェルに気がついたのか、近づいてくる。

「オリヴィエっ」
「いいから、あんたは黙ってなさいな」

小さい声で慌てるゼフェルを見てオリヴィエはにっこりと笑う。
その、笑顔にとてつもなくいやな予感がしたゼフェルは、そっとそばを離れようとしたのだが。

「おっと…これは、かわいいお嬢ちゃんだな」

よりによって、オスカーへと近づいてしまった。
覗き込まれてびっくりする。目の前にはアイスブルーの瞳。

(えっ…うわっ!やっちまった!俺のバカ!!)

至近距離で覗き込まれて心臓がバクバクを音を立てている。

「このお嬢ちゃんは、お前の知り合いか?」
「そ…そうよ!アタシのところの補佐官の知り合いの子。せっかくだからこの夢の守護聖様がメイクのレッスンしてたとこよ」
「そうか」

(気づいてねぇのか…?)

ちろりとゼフェルはオリヴィエを見た。
その視線ににんまりと笑うオリヴィエ。

「あのね、その子ものーすごーく恥ずかしがりやなの。それに、ちょっと無口な子なのよ」

(なに言ってんだよ!)

驚いているゼフェルを尻目に、オリヴィエは楽しそうだ。

「だけど、アンタなら大丈夫そうだから、聖地案内してやってくれない?女の子の扱いならなれてるだろうし、アンタと一緒なら変な虫もつかないと思うしね」
「ああ、俺でよければ喜んで。お嬢ちゃんはいいのか?」

いやだ、と断りたいところだが、どうもそんな雰囲気ではなくなってしまい、こくりと頷く。
こんな格好で外に出るなんて絶対嫌なのだが、しゃべったらオスカーにバレてしまうだろう。それならいっその事、オリヴィエの提案に従うほうがいいのかもしれない。
仕方なくこくりと頷く。


「それなら、行こうか」

オスカーは先に歩き、ドアを開く。
重い足を動かしてドアに向かおうとすると、オリヴィエに呼びとめられた。

「あ?」
「ちょっとまって…」

手に持っていた細いレースにストールを首にくるりとゼフェルの首に巻きつける。

「…なんだよ…これは」
「首筋…キスマークついてるの」
「なななななななっ」
「お嬢ちゃん?」

オスカーに呼ばれ、真っ赤になって首筋を押さゼフェルは歩き出す。

これから、どうなるのか分からない不安でいっぱいだったのだが…。




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