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□いつでもドキドキ?
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ゼフェルはむすっとした顔で聖殿の廊下を歩いていた。
それは前を歩いていた者が思わず道を譲ってしまうほどに。
実は彼は不機嫌なわけではない。
どうしようもなく、悩んでしまっているのだ。
原因は炎の守護聖オスカーにあった。
オスカーを結ばれてはや数ヶ月。
どうしても、素直になれないゼフェルはオスカーに対してつれない態度ばっかりをとってしまう。
それをどうかしたくて、考えて考えているうちにだんだんと険しい顔になってしまっていっただけなのだ。

「ゼフェル!」

向こうからランディの呼ぶ声がした。
返事するのも面倒くさくてただそちらを向く。

「あのさ、これ」

彼がもって来てくれたのは一冊のファイル。

「…これ何?」

手渡されてみてみるがいまいちピンとこない。

「ゼフェルが前に欲しがってた惑星のデータだよ。忘れたのかい?」
「あん?……ああ。そういえばそうだっけ?」
「そうだよ!どうしたんだ、ゼフェル大丈夫か?」
「おめーの頭よりは大丈夫だ」
「なんだよ、それはっ!」
「本当のこと言っ…」

そこでゼフェルは言葉を止めてしまった。
ランディの後ろからやってくる人物を視線の先に入れてしまったからだ。

「どうした?」

そんなゼフェルの様子にランディも振り返る。

「オスカー様」
「坊やたちか…。廊下で何してるんだ」
「誰が坊やだ。この万年発情期ヤロー」
「オスカー様、坊やはやめてくださいっ」
いっぺんにそう返されて、オスカーは笑う。
「そういう風にいちいち言っているから、坊やだというんだ」
「おめーみたいな大人になるよりはずっとマシだと思うけどな」。
「あっ、だめだよ。ゼフェル、いくら本当のことだか…あ」

皮肉げにゼフェルが言い返せば、ランディがフォローにならないフォローを入れる。

「全くお前たちは…」

はぁと溜め息を突くオスカー。

「俺ほどまともな大人はこの聖地中探してもいないと思うんだがな。それこそお嬢ちゃんたちが放っておかないほどに、な」
「お前みたいなナンパやろーも聖地中探してもいねぇと思うけどな」

そう言ってそっぽを向いてしまったゼフェルをランディは小突く。
オスカーといえばただゼフェルを見ているだけだ。
ランディはそっと胸をなでおろしてからゼフェルへと話しかけた。

「えっと、…ゼフェル、そのファイル渡しておくからさ。終わったら返しに来てくれよ?」
「おう」
「それじゃあオスカー様、俺失礼します」

オスカーへと一礼しランディはその場を去る。
後に残されたのはゼフェルとオスカー。
そのまま二人は歩き出した。

「ゼフェル」

先に話かけたのはオスカー。

「んだよ…」
「誰がナンパ野郎だ?」
「おめー」
声がなんとなく怒っているようだったが、オスカーは続ける。
「今はお前がいるんだから、お嬢ちゃんたちに声をかけたりしてないさ」
「……」
「ゼフェル?」

それでもゼフェルはオスカーを見ない。
だから、オスカーはゼフェルが不機嫌になっていると思っていたのだが。
実はこのときゼフェルは恥ずかしさの余り心臓がバクバクと音を立てていた。
ランディから手渡されたばかりのファイルをオスカーには見えないほうの手でぎゅっと握っている。

(やべぇ、どうしよう…!!)

顔は真っ赤になっていそうだし心臓は飛び出しそうだ。

(もしかしたら顔、赤いのオスカーにバレてんのかっ。うわーっ!それだけはいやだっ)

オスカーといえばゼフェルが全然に自分を向いてくれないし、返事を返してくれないので少し困っていた。

「どうしたら許してくれる?」

最後の手段とばかりに前に回りこんで、ゼフェルの頬を両手で挟みこんで上を向かせた。

「へ?」

一人で考え込んでいたぜゼフェルは目の前にいきなり現れたオスカーの顔に一瞬何が起こったのかわからない。
ただ分かったのは今まで以上に真っ赤になった自分の顔をオスカーに見られたということだ。しかも、至近距離で。

「うわっ!」

思わず持っていたファイルでオスカーの顔を押さえてしまう。
ばくばくと心臓が早鐘を打つ。

(びっくりしたっ!何だ今の!どうしてオスカーの顔が目の前にあるんだっ!)

「ゼフェル…」

オスカーは両手で自分の顔を押さえているゼフェルの手首をつかんだ。

「うあっ!わりぃオスカーっ」

急いで手をどけようとするがオスカーに手首をつかまれていてはそれも出来ない。

(まさか、怒らせちまったか?)

「…オスカー?」
「…つ…」
「おい!オスカーってばっ!」
「っく…」
「なぁ、どうしたんだよ…」
「っ…はははははははっ」

いきなり笑い出したオスカーにゼフェルは驚き戸惑う。

「んだよっ!おめーなに笑ってんだよっ!」
「悪い…っ。笑うつもりではなかったんだが…。なんというか安心してな」
「はぁ?安心?何で?」

さっぱり意味が分からないゼフェル。
なぜなら自分こそがオスカーを怒らせたと思ったからである。

「さっきは本当に怒っているのかと心配になったんだが…。そうか…俺といるといまだに照れるのか」
「んなっ!…照れてなんかいねぇよ!勘違いすんな!」
「そうか?さっきの表情は中々、かわいらしかったが」
「ばっかじゃねぇーの!お…男がかわいいって言われても全然うれしかねーっ。それよりはなせっ」

ゼフェルは未だに手首をオスカーにつかまれたままだったのだ。

「だって離したら逃げ出しそうだしな」
「にげねぇから、はーなーせーっ!」

ようやく開放してもらいゼフェルはほっと息をついた。
オスカーからファイルを受け取るとまた一緒に歩き出す。

「そうだ、ゼフェル」
「何?」
「今日、久しぶりに下界に遊びに行かないか?」
「行くっ!」

思わず即答してしまう。
近頃、執務が忙しくて中々遊びにも行けない状態だったのだが、今日は珍しく落ち着いている。それに加え今日は金の曜日で明日は土の曜日。
つまり今晩遊んでも全然問題ないわけだ。

「よし。それなら今晩迎えに行くから待っててくれ」
「すぐに言ったほうが早くねぇ?」

ゼフェルにオスカーは楽しそうに答えた。

「こういうのはな、ゼフェル。迎えに行ったほうがデートっぽいだろう?」
「デート…?って何言ってんだっ」
「ほら、また照れた」
「照れてねぇ!」

そうは言うものの、折角落ち着いてきた頬はまた赤くなってしまっている。

「それじゃあ、夜にな」

いつの間にかにオスカーの執務室についていたらしくオスカーはさっさと中に入ってしまった。
頬にちゅっとキスのおまけつきで。

「…っ!」

後に残されたのはゼフェルだけ。

「あのヤローはっ…!」

ぶつぶつと文句をいいつつ自分の執務室に入ったゼフェルははっと動きを止めた。

「…もしかして…初デートってやつか…!」

ゼフェルのドキドキはまだ終わりそうにはない。


fin


……………☆……………
1500ヒットを踏んでくれたゆな様へのキリリク小説となります。
「ツンデレ全開のゼフェル様」
ツンデレ全開になってるといいのですが…。
オスカーがたのしそうだなぁ…(笑)
ありがとうございましたっ。



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