短編

□もういいんだよって笑った
2ページ/2ページ


「私、みんなのために、なんにもできてないなぁ…」
「俺は…名無しさんは、よくやっていると思う」
「そう…かな…」

頭を、不器用に撫でられた。
力加減がまるでわかってないらしく、少しだけ痛いけれど。

「断つことしか知らなかった俺に、名無しさんはいろんなことを教えてくれた」
「なんにも、してないよ」
「真作だとか、贋作だとか。今は少しだけ前よりも気にならなくなってきた気がするんだ…」
「そっか」

最初に会ったときの自分に教えてあげたい。
蜂須賀さんは、とってもいい人で。
そりゃあ、少しこだわりが強くて、野良仕事は苦手だけど。

今、とっても幸せです。

隣で笑ってくれるこの人と、一緒に戦っていけるなら、それは大いに価値あることだと。

不思議そうにこちらを見る、蜂須賀さんに笑って見せた。

ぎこちない、あの人の、どこか儚い笑顔がまぶたに強く焼き付いた。
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ