長編(無双/元就)

□抗う憧憬を埋めろ
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いつか、罰が当たって、そんな日が来ると思っていた。こんなことをしているんだ、いつか誰かに襲われてしまうのなんて、自明の理じゃないか。

本当に馬鹿。頭の中の私は、きゃんきゃんうるさかった。彼に組み敷かれて、目の前に目をこれでもかとぎらつかせて、牙を剥き出しにした獣の顔。

情けなく、震えた。ぼんやり靄のかかったまま、蛇に睨まれた蛙よろしく。

理解出来ていても、嫌なものは嫌なんだと、初めて体験して痛いほど感じた。目の前の獣は、もはや私には人に見えなかったし、気持ちが悪くてしょうがなかった。

目の前に広がる缶の海、向かい側で少しだけ呆けた顔の男が見える。視界に入れるのはひどくまずかった。苦い。喉の奥がたまらなくつかえているような気分だった。

逃げ道の酒も、飲みなれてなどいない。それでも今は、他に場をつなぐものはないから、とにかく飲み乾した。

「あまり飲み過ぎると、体に障るよ」
「関係ないでしょ。それともなに、煽ってる?」
「…そんなつもりはないんだけどね。若さに侮ると、痛い目をみるよという、大人の忠告だ」
「あっそう」

男は一皮剥いでしまえば、その下に言い知れぬ獣の性を持つ。それを、私は人生初めての恋で知ることになった。

いわゆる先輩後輩の中で付き合い始めた。それはもう、甘酸っぱさの真ん中のちゃちな恋愛である。とにかくその頃の私は、まだ世間というものを何も知らない、植物園の蘭のようなものだった。
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