短編

□しなやかにあいされたい
1ページ/2ページ


部屋には消毒液の香りが染みついていた。
身体は包帯でぐるぐる巻きにされ、頭は鈍い痛みにおおわれている。
目を開けると外はもう昼で、眩しさがまぶたに容赦なく噛みつく。

畳を踏みしめる音が、遠くで聞こえた。
ああ、誰だろう。

布団の傍に、その人は座り込んだ、細いもの、髪が私の顔に触れる。

「青江さん」
「おはよう…傷は痛むかい」
「ええ」
「馬鹿な子だ。彼女を君が庇わなくたって、傍にはみんないたのに」
「そう、ですね」

壊れ物に触られるように、額に手を乗せられた。
眉間にしわをいっぱいに寄せて、何が言いたいかはそれだけでも、十分伝わった。
青江さんはとても、優しい人だ。
審神者じゃない、ただ巻き込まれただけの私にも、こうして会いに来てくれて。言葉をくれる。

「何、笑ってるんだ」
「にっかり、ですよ」
「君もなかなかつかめない人だね」
「青江さんには、言われたくないですー」

いじけた風に、唇を尖らせると上から唇が降ってきた。
切れた唇に触れた唇がひりひり痛む。そこをぺろりと舌がなぞって。ぬるりと口内に入り込んできた。

いたわるように、壊されていくように、相反する行為が私をどろどろに溶かしていく。

「名無しさん…」
「…苦しいです、痛い…」
「君をこのまま、何も出来なくしてしまおうか」
「嫌ですよ」
「連れないね」
「何も出来ないのは困ります」
「こんな風になってもか。いつか本当に、何も出来なくなってしまう」

かち合った眼は、お互いの意固地さを知らしめているようで。思わず苦笑いを浮かべてしまった。
青江さんの方がきっと、誰よりも無理をしてしまいそうなのに。それでも、私の方ばかり、心配する。

「沈んじゃいますから、あんまり甘やかさないでください。青江さん」
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ