短編

□キスで免除してあげる。
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(筆プレイです)


唇に始まり、いまやいたるところに落されるキスに混ざって、さわさわと、胸元を触れるか触れないかの力加減で筆が行き来する。

そんなことのために、こんなプレイのために、私はあなたに筆をプレゼントしたんじゃない!と、声を大にしていいたかったけれど、今私が口を開いたら、きっとどうしようもなく恥ずかしい声であなたを喜ばせてしまうだろうから、必死に我慢している。

「…名無しさん、我慢は体に良くないよ?」
「…だれ…の、せい、よ」

やっとのことで絞り出した声は、想像以上にか細かった。目の前で笑みを絶やすことなく、筆を撫でつけているのは、私の恋人である。

今日は、世間ではホワイトデーというやつで、我が家においては、元就さんの誕生日だったのだ。

いつもより、お互い早く仕事を切り上げて一緒に休暇をとって、それこそ、明日はどこかでゆっくりデートでもしようか。なんて、考えていたのに。

急いで帰ってきて、サプライズで彼の趣味の書道に使えるような、少し値の張った筆をプレゼントして、ご飯を食べてお風呂に入った。

もう、あとは、寝るだけだ。明日が楽しみだな、なんて考えていたのに。

「…ねぇ、名無しさんこの筆、毛足がとても柔らかい。ちょっと、試し書きしてもいいかい?」

と、うずうずしながら彼が言ったものだから、髪を乾かしながら、半ば投げやりに「いいんじゃない?」なんて言ってしまった、数分前の自分が憎い。
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