短編
□後ろめたい幸福
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私はきっと、長谷部さんから、主として、女としてたくさんの幸福を、捧げられていると思う。
仕える事こそ、我が幸せ。
を、地で行く人なのだ。長谷部さんは。
彼が時々、忌々しげにつぶやく信長という名前に、結局のところ彼の本当の主は、あの人しかいないのだと思い出され。
思わず苦い顔をしてしまう。
「主、どうしました」
「なんでもない。ただ」
「ただ?」
「なんだか、後ろめたいね…」
純粋に喜ぶことができない、自分の底意地の悪さに、勝手に長谷部さんを巻き込んでいるだけ。
彼は、なんにも悪くない。
私を選んでくれた彼を、信じてあげられない私が悪い。
「与えられるものに、上手に満足してやれない。己が不器用さに辟易しているのですよ」
と、少し自嘲気味かつ、小難しく返してやると、長谷部さんは私の頬を少しだけ、つまんだ。
「な、に、すりゅ、のよ」
「はは、面白い顔ですね。主」
「はな、し、て!」
そういうと、すみません。と言いつつも全く悪びれた様子もなく、頬は解放された。