短編

□後ろめたい幸福
1ページ/4ページ


私はきっと、長谷部さんから、主として、女としてたくさんの幸福を、捧げられていると思う。

仕える事こそ、我が幸せ。
を、地で行く人なのだ。長谷部さんは。

彼が時々、忌々しげにつぶやく信長という名前に、結局のところ彼の本当の主は、あの人しかいないのだと思い出され。

思わず苦い顔をしてしまう。

「主、どうしました」
「なんでもない。ただ」
「ただ?」
「なんだか、後ろめたいね…」

純粋に喜ぶことができない、自分の底意地の悪さに、勝手に長谷部さんを巻き込んでいるだけ。

彼は、なんにも悪くない。
私を選んでくれた彼を、信じてあげられない私が悪い。

「与えられるものに、上手に満足してやれない。己が不器用さに辟易しているのですよ」

と、少し自嘲気味かつ、小難しく返してやると、長谷部さんは私の頬を少しだけ、つまんだ。

「な、に、すりゅ、のよ」
「はは、面白い顔ですね。主」
「はな、し、て!」

そういうと、すみません。と言いつつも全く悪びれた様子もなく、頬は解放された。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ