短編
□甘い甘いお菓子をあげよう
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「そんなに、むくれてくれるなよ」
「…」
先ほどから一言も、名無しさんはワシと口をきこうとしない。
そっぽを向いて、頬をむくれさせたままだ。
「…今日、デート、だっていった」
「そうだな」
「新しい、服…買ったのに」
そう、今日はデートのつもりだった。
しかし、急な呼び出しに答えないわけにはいかなかった。
ワシも多くの社員を抱えている。
一つの損害が、何人の生活に差し障るかもしれないと思うと、私情を優先させるのは、はばかられた。
「そんなこと、分かってるだろう」と、いうことは簡単で、それを言ってしまえばすぐに済む。
しかし、そんな大人の汚らしさに、名無しさんを染めてしまうのはいけないと思った。
「家康さんは、すごい人で、そんな人と今、恋人だってことは、それってすごく奇跡的だよね…」
「そうだな、ワシと名無しさんが出会えたことは、すごいことだ」
「…それだけで、満足、しなきゃいけないのに。もっと、もっとって…わがままだよね、私」