長編(無双/元就)

□抗う憧憬を埋めろ
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「なな、君は…」
「だから執着するんですよね。絶対手に入らないって、もうわかりきってるものに。だから大人になれないんだ」

頭は駄々をこねるガキのそれで、目の前で、さめざめしく泣き始めた私に、彼はきっと幻滅した顔をしているに違いない。そうあって欲しいと、懇願にも似た感情がよぎった。

「忘れてしまえばいいんだよ。大人はずるいから、逃げるんじゃなく、忘れようと励むんだ。時々どうしようもなく、心が癇癪を起すけれど、飲み干してしまえば何も怖いことはない」
「あいしてるって、いってくれたの…あのひとは、いって…」
「君は欲張りだ、そんなに言葉を抱えて、それでもまだ欲しがる。本当は分かっているくせに」

手放してしまえ。きっとそれが、唯一楽になれる方法であると。抱えたまま生きるのは辛いだろう。捨ててしまえと。

頭がゆらゆらと、アルコールに溺れる。瞼も体もとても重たくて。

私の目元を、優しく拭ってくれる。その指先の主に、嫌味の一つも返せやしなかった。

不器用で優しくて、臆病で健気な人。

慣れない温もりに、涙は止まらなかった。
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