長編(無双/元就)

□抗う憧憬を埋めろ
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彼とは少しずつ歩幅を寄せていきたくて、照れのいつまでも抜けない、初々しさだったと思う。

なんて、そんなことをずっと思っていたのは、私だけだった。

ある時から、彼は時々理由をつけては、会えないことが少しずつ増えていった。
相談できる友達など、その時期の私にはいなくて、ただ会いたいと、それだけの理由で、彼の家に出向いた。

急に行って、驚かせてやろう、具合が悪いのならと差し入れさえも準備していた始末だ。

彼の部屋を前にして、静かすぎることに気付く、そして次には、くぐもった男女の声が聞こえた。

その頃の私は、酷くそういうモノに疎かったから、何が起こっているのか、ドアの隙間から除き見るまで、まったく見当などつかなかった。

「びっくりしたもの、だって、まさかって思った。こんな裏切られ方があるんだって、初めて知ったのよ」

お子様恋愛の端くれは、焦げ付いていて、酷く口当たりは悪かった。
足はすくみ、目にいっぱい涙がたまった。喉がからからで、すぐに逃げ出したいのに、それでも体は言うことを聞いてはくれなかった。

「馬鹿みたい。サルみたいに男女がセックスしてるの見て、私本当に、ただびっくりした。怒鳴り込んでやることも、彼を問いただすこともできなくて、修羅場から逃げ出して、そのままずっと、逃げてたの…」

今日は、私も毛利さんも、えらく気分がよかった。口も気持ちもふわふわして、誰でもいい、誰でもよかった。

しがみついたままの、馬鹿な私を、誰かに知っていてほしかった。許されたかった。ずっと、逃げ続けることを、許容してほしかった。
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