長編(無双/元就)

□寂しさでは多分死ねない
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ななこは、強引にベッドに押し付けられた。両手は頭上でひとまとまりにつかまれ、逃げ出せない。

「捕まえた…ここまで待つなんて、俺って意外と我慢強いよね?」
「…最っ低…」

彼女は男をにらみつけるも、彼はにやにや笑いながら、彼女のシャツに手を掛けた。
ボタンが一つ一つ、外されていく。
酷くゆっくりとした、その動作に、彼女は顔が熱くなってくるのを感じた。

「なに…照れてんの?えー、まさか、ななちゃんほどの女の子に限って、処女なんて…」
「…ッ」
「うっそ…」

なんでなんでと言いながら、すっかりシャツをはだけさせた男は、彼女の下着に手をかけた。
腹を滑る男の手に、ぞわぞわと得体のしれない感覚が彼女を襲う。
抵抗する力はとっくに薄れていた。

「…ちょっと、泣かなくてもいいじゃんね。大丈夫、優しくするって」
「ゃ…」

シーツを固く握りしめて、頭を振る少女はただ、か細く拒否を連ねるだけで。
容赦を知らぬ男の手が、下着の肩紐をつまんだ時のことだった。

「…ん?」

小さなバイブ音が、シーツの海をささやかに揺らした。
どうやら、着信らしい。
いつまで経っても止まないそれに、男は苛立たしげに出ることにした。

「…なに、今イイとこなんだけど」
「あれ、違ったかな?これ…」
「合ってるよ、ななちゃんのスマホです」

ずきりと胸が痛んだ。
なんで、こんなタイミングであの人は、連絡など寄越すんだ。
自分でばらまいた種に引っかかって、危うく襲われかけてる私に。

固く握りしめたままのてのひらが、力を入れ過ぎて真っ白になってしまっている。

「あー、その子さ、君の彼女だったりするのかな…」
「え?いや、そういうんじゃないけど…」
「それじゃあ、今から迎えに行くから」
「何…あんた、ななちゃんの父親だったり?」
「うーん、まぁ、そんなところかな」
「…いや、もう、家に帰すところですんで、大丈夫です、じゃ、じゃあ!」


何やら男の表情が、どんどん青ざめていく。
聞いてねぇよとか、うっわとか、状況がうまく理解出来ない彼女には、うわごとのようにしか、響かないのだけれど。

男が、彼女の上からどいて、居住まいを正し始めたところで、ななこはふっと、我に返った。

「な…に…?」
「お前の父親…?から、電話だよ…あーあ、すっかり萎えたわ…」
「あっそ…」

呆けたまま、とりあえず服を整えて、男の部屋をそそくさと出た。
明日の午後まで、あの男の部屋で過ごすつもりだったのにと考えながら、ななこは男の受けたスマホの着信履歴を確認した。

「は…?」

そこには、父親の名前ではなく、彼女が登録したなりさんの名前があった。
たくさんのどうしてが、一斉に彼女に襲い掛かる。

「あは…ばっかみたい」

きしくも自分を助けてくれたのは、あの人だったと、どうしようもない感情の波が、彼女を包むだけだった。

一人で当たる夜風は、まだ冷たい。
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