長編(無双/元就)
□その心臓を握らないで
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冷たい夜風が、肌に突き刺さるようだった。
自分は、何をしていたんだろう。吐く息も、まだ少しだけ白い。
私はなんであんな遅くに、ななに電話しようなどと思ったんだか。
ああ、明日は週末だし、酒でも飲んでゆっくりしよう。丁度、立て込んだ仕事もないし、何もしないどこにもいかない休みだっていいじゃないか。
そう思って、財布だけもって家を出たのがほんの少し前。
もうこんな時間に開いてるスーパーなんてないから、近くのコンビニに寄ることにした。
以前よりはあまり夜中に出歩かなくなったから、妙にそこだけ明るくて、コンビニの暖色電燈の光が目ににじんだ。
こんな時間だ、ちらりとレジを見ると、店員だってローテンションで、少し眠そうだった。
私はいそいそと、ビールやら酎ハイやらを手当たり次第に抱えた。もう、ヤケ酒の気分だ。
「…あ」
次はつまみをと物色していると、後ろから小さな声が聞こえた。女性というよりは、少し幼い少女といった感じか。
自分に対して向けられたものではないだろうが
ちらりと振り向くと、どうにも複雑な表情を浮かべた彼女と目が合った。
しかし、すぐに気まずそうに目をそらした。
今晩の予定は、大幅に変更になったらしい。
どうしてか、とても面白い気分だった。
他人の不幸は喜ぶものじゃないよ。と、頭の中の善良な自分がわめくが、知ったことではない。