もう一人のドリームナージャ3(操られた貴公子編)

□第2章 貴公子とピアニスト
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一人の青年が馬車の窓から外を見ていた。馬車はローマの町をがたがたと音をたてながら通っていく。
青年は馬車にのっているのにも関わらずなんだか疲れている様子だ。その姿を見ていた青年とよく似た顔をした母親が、青年に言った。
「オスカー。最近家のことで頭がいっぱいだから疲れているでしょう?」
オスカーと呼ばれた髪の長い青年は母親の顔を見て言った。
「お母様心配しないでください。それに家のことは全部僕がなんとかやっていますし、お母様はぜんぜん気にしないでください。」
心配そうにオスカーを見つめていた母親のヒルダに言った。ヒルダは、少し小さいため息をついた。
(オスカーには、心配をかけてばかりね。ヘルマンと離婚してからというものオスカーに頼ってばかりだし・・・。この子を支えてくれる人がいてくれたらいいのかもしれないけど・・。)
ヒルダは若くしてコロレード家をついだ息子を心配していた。確かにヘルマンといたころと比べて暮らしは楽しくなったが、オスカーの責任と負担はいっきに増えてしまった。若い息子のことを心配に思わない日はない。ここのところ彼が行っている事業も苦戦しているとの話も噂で聞いている。
「オスカー・・・。」
とヒルダがオスカーに話かけようとした時に急にオスカーはあるものに目を奪われた。
「馬車を止めてくれないか。」
オスカーが指示すると馬車は止まり、オスカーは、馬車から出た。ヒルダもオスカーの後に続いて外に出る。
オスカーが、目を奪われたものは、にぎやかで陽気な旅芸人の一座だった。彼は、この旅芸人たちを知っていた。特にこの一座の踊り子については。
「さーて、続きましては、ダンデライオン一座が誇る奇跡の舞姫ナージャと侍ケンノスケのイタリアンクラッグショー!!」
と団長が叫ぶと、そこにオスカーの元叔母の娘であるプラチナブロンドの髪の少女がと日本人の少年が出てきて音楽に合わせて踊りだした。二人の息の合ったダンスに会場が盛り上る。オスカーもヒルダも二人のダンスに見とれていた。
「本当にあの子はコレット様によく似ているわ。」
ヒルダがナージャを見て言った。ヒルダとナージャの母親コレットはとても仲がよく一緒によくでかけたりしていた。一方オスカーも、コレットを尊敬していた。コレットは、誰にでも優しく、いつも笑顔で接することができるすてきな女性だ。そのコレットにナージャは本当によく似ていた。ナージャとケンノスケのダンスが終わるとまた団長が出ていきて次のショーについて紹介した。
「続きまして、ダンデライオン一座が誇る夢と希望を奏でるピアニストマコレット!!」
すると、ステージの裏手から一人の黒髪の少女が現れた。オスカーもヒルダも驚いた。マコレットと呼ばれた少女が、ナージャと髪の色が違うだけで瓜二つくらいにそっくりだったからだ。しかし、もっと驚いたのは、彼女のピアノの演奏である。オスカーは、マコレットの音楽のとりこになってしまった。マコレットが奏でるピアノは、川が流れるようにしなやかでどこか切ない旋律を奏でていた。そして、ピアノの曲調に合わせるような彼女の切ない顔が印象的だった。その顔は幼いながらどこか魅力的だった。
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