もう一人のドリームナージャ 1 (序章編)

□第5章 双子
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ハーコート侯爵家では、その日はすごくあわただしくメイドが動き回っていた。というのも、今日は大切な舞踏会が今夜行われる。もちろん、ハーコート侯爵家の跡取りフランシス・ハーコートも例外ではなかった。
「今日は、大切な舞踏会だから舞踏会に来られたご婦人方の相手をしっかりするように。」
フランシスの父親であるハーコート侯爵がフランシスにくぎをさした。フランシスは、父親の言葉に対して納得がいかなかったが、仕方がないと思った。フランシスは、舞踏会で踊る時はナージャがいるときだけという噂が狭い社交界では超有名な話であった。
フランシスは、自分の部屋に変える時に少し悪態をついた。貴族の生活は、窮屈で彼にとってとても生きづらいものになっていた。
(ナージャが今日の舞踏会にきてくれたら・・・こんな思いをせずに苦手な舞踏会を楽しめるのだろうに)
彼は、ナージャのことをいつも思っていた。たぶん彼の心の半分以上はナージャで占めていた。それほどまでにフランシスにとっては、ナージャはこの世で一番大切な存在になっていた。



そんなことを考えながら部屋に戻るとふと部屋の窓があいていることに気づいた。フランシスは、自分が部屋を出ていく際にはきちんと閉めたはずの窓が開いているのを不思議に思った。窓に近づいて閉めようとした時誰もいないはずの部屋から自分を呼ぶ声がした。
「フランシス!久しぶりだな。あれから抜け駆けしてなかったようだな。」
フランシスが後ろを振り向くとそこには、フランシスそっくりの金髪で青い瞳をした青年が立っていた。フランシスと唯一違うというならば彼の服が黒のスーツであったことだ。フランシスは、黒の洋服はあまり着ない。
「キース!」
フランシスは、自分と瓜二つの青年に駆け寄る。
キースは、フランシスの双子の兄である。あまりにも姿形が似ているため、よく小さいころ人に間違えられた。
「どうしてここに!?」
フランシスは、キースに問いただす。キースはフランシスにそんなにあわてんなとでも言いたそうに手でフランシスの次にでてくる言葉を制止させた。
「実は、怪盗黒バラをやめた後に俺は、ある会社の新聞記者になったんだ。」
その言葉を聞いて唖然とするフランシス。そんな弟のびっくりした顔がおかしくてキースは思わず笑ってしまった。
「笑い事じゃないよ、兄さん。しばらく身を隠すといってから半年も経つのに一向に連絡がこないから僕がどんだけ心配していたか・・。」
弟がこんなにも自分を心配しているとはキースは思ってもみなかった。
「それはすまなかったな。いろいろ忙しくて連絡どころじゃなかったんだ。でも、俺がお前のすぐそばで行動していたことは分かっていたんじゃないかと思っていたんだが・・・。」
とキースがフランシスに言うとフランシスは、頷いて話し始めた。
「なんとなくは、もちろん気づいていたよ。だって、このごろいろんな人が僕を見るたびになんだか急に表情を強張らせて通りすぎるんだ。それにいつのまにかハーコート侯爵家の膨大な額の借金がなくなっていて、こないだなんかお父様に感謝されたくらいだよ。」
フランシスがそういうとキースがまた笑った。こんなに笑うキースをみるのは珍しい。
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