もう一人のドリームナージャ10(ブラックバレンタイン編)

□第17章 告白
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そのころコンクールの会場では、ジョンがステージの上に立っていた。少し緊張した面持ちがあるもののその表情は自信にあふれている。ジョンは、ピアノの前で観客と審査員に一礼すると、ふと視界に入ったフランシスとナージャの方を見て微笑んでから椅子に座った。誰もが、ジョンの演奏をまだかまだかと息をのみながら待った。そして、ついにジョンの指が鍵盤に触れると、曲が奏で始めた。曲は、まるで硬い蕾が花開くようななめらかで優しい曲調だった。誰もがその曲を聞いて聞き惚れている。もちろん、フランシスもナージャもジョンの曲を聞いて、うっとりとしていた。それに、二人は偶然であるが同じことを思い出していた。そう、スイスでのお互いの気持ちを確かめあったあのファーストキスの場面を・・・。曲が終わると、会場の観客たちからスタンディングオベレーションが送られた。ジョンもそれに答えようと観客たちに一礼した。
「ジョンの演奏・・・本当によかったわね。私感動しちゃった。」
「ナージャ、僕もだよ。それに僕は、スイスでも君とのことを思い出したよ。」
フランシスが言うと、ナージャの頬が赤みを帯びる。
「実は・・私もそうだったの。フランシスとの思い出にひたちゃった。」
「ナージャ・・・。」
お互い同じことを思い出しながら曲を聞いていたことになんだか照れくさいような嬉しいようなそんな気持ちだった。

「続きまして、ウィリアム・ホーストンの登場です。」
進行の係りの者がウィリアムの名前を呼ぶと、ステージにウィリアムがマコレットの手を引きながら現れた。会場中がその瞬間どよめいた。ナージャもフランシスもどの光景を見て、目を見開く。
「いったいどうなっているの?」
ナージャがマコを心配しそうに見つめる。ナージャの横にいたジェーン、ハービーもきょとんとしている。
そんな観客たちをよそにステージに上がった二人は小声で話した。
「ねえ、ウィルこれで本当にいいの?」
「いいに決まっている。キースだって君を押しただろ。彼の期待に応えてあげたらいいんじゃないかな。」
「そ・・それは・・そうかもしれないけど・・。」
マコが少し困った顔をしながら言った。
「あの・・・これはどうゆうことでしょうか?」
係りの者がウィリアムに聞く。ウィリアムは会場の人に聞こえるように答えた。
「私、ウィリアム・ホーストンは、皆様に謝罪したいことがあります。それは、私は、本当は曲など作れないピアニストとであるということです。」
その衝撃的な発言に会場の者たちのどよめきが最高潮になる。
「じゃあ、今までの君の曲はいったい誰が?」
審査員の一人がウィリアムに問いかける。ウィリアムは、マコレットがみんなに見えるように自分が一歩下がった。
「彼女こそ、私のゴーストライターになってくれていた女性・・・そう、マコレットです。」
それを聞いた観客たちのやじが飛んだ。
「会場の皆様静粛に!」
一人の男性が大声を上げた。途端に会場が静まり返る。男性はそのままステージの上に上がった。マコはその人物が初めてウォール伯爵であると分かった。
「ウィリアム君・・・君はなにをしたんだ?」
「私は、ここにいる皆様に彼女の書いた曲を是非聞いていただきたいと思いました。それが、私のこの世界における最後の役割であると思ったからです。」
ウィリアムの目には迷いや動揺はなかった。しっかりと、ウォール伯爵の目を見る。それを見たウォール伯爵は頷く。そして、マコを見る。
「では、君が・・・その曲を弾くのかね?」
ウォール伯爵はマコの実力をすでに知っているので、ここでマコが弾くことに反対しないみたいだった。
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