もう一人のドリームナージャ10(ブラックバレンタイン編)

□第3章 真っ白な楽譜
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その日、ピアノの前に座って何度も音をたたいていたがいまいちしっくりしない。あとコンクールまで数日しかないというのにぜんぜん曲の1つも完成していない。そんな状況にため息をして立ち上がる。
(もういっそコンクールなんかドタキャンしたいよ。)
そう思いつつ現実はそうはいかないことを彼は知っていた。そう、ジョン・ウィタードは・・・。
そもそも彼をこんな状況に陥ったのにはいくつかの原因があった。その大きな原因の一つは、ジョンをも超えるという天才ピアニストにして、作曲家の青年の出現だった。その青年の名前は、ウィリアム・ホーストンというジョンと同じイギリス人である。ウィリアムは、生まれこそジョンと同じイギリスであったが、育ちはフランスのパリであった。しかも、聞くところによると金持ちの息子だという。そんなお坊ちゃまピアニストが、突然現れてしかも、自分よりも才能があるという連中の噂をここ数週間のうち何回も耳にした。そして、今回のコンクールが、初のジョンとウィリアムの勝負であった。
「どうすればいいだ?」
そんなわけでジョンは、ここ数週間周りに振り回されているのであった。そのせいか作曲の方に集中することができずにいた。ピアニストとして人一倍高いプライドの持ち主であるジョンは、もちろんウィリアムに負けたくなかった。だけど、そう思えば思うほどどつぼにはまってしまっていた。
コンコン突然ドアのノックが数回聞こえて来た。ジョンは、その音に反応してドアの方を向く。ドアは、特に施錠していなかったので、誰でも入れるようになっていた。
「はい。ドアは開いているので、どうぞ。」
ジョンが言うと、少ししてからドアがゆっくり開いた。ジョンは、驚いた。そこに立っていたのは、学生時代からの友人のフランシス・ハーコートだったからだ。このところ、彼に連絡を取りたくても音信不通だったので正直こんなタイミングで会えるとは思っていなかった。
「やあ、ジョン。久しぶり!」
フランシスがジョンに挨拶すると、ジョンがフランシスに駆け寄って来た。よっぽどうれしかったのか、フランシスの近くにいたナージャやマコのことには気づいてないみたいだ。
「フランシス、久しぶり!君に会いたいと思っていたんだ。」
ジョンは、フランシスの手を握りながら言った。フランシスは、そんなジョンに微笑んだ。
ジョンにとって数少ない友人の一人がここにいるフランシス・ハーコートだった。彼は、パブリックスクール時代に一緒の部屋になった友人で、よくスランプに陥ったジョンの話を聞いてスランプから立ちなおさせていた。だから、こんな時に再会を果たせたことはとてもうれしかった。
「久しぶりね、ジョン。」
ジョンは、話をかけられてから側にナージャとマコがいることに気づいた。
「君たちは、ナージャとマコも。よくここに来てくれたね。」
ジョンは、うれしそうに少女たちにも微笑んだ。
「ちょっと用事があって、フランスに寄ったんだけど・・・ジョンが出るコンクールの話を聞いてここに来たの。」
ナージャが言った。その話を聞いて、一瞬ジョンの顔が曇ったのをマコは見逃さなかった。
「そうだったんだね。とりあえず、部屋に入ってくれよ。」
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